放課後、グラウンドへと向かおうとするところを呼び止め
他に誰もいない中庭で自分への好意を伝えてきた集団の中心に立つ女生徒に向かって
卓は語尾を濁らせながらも端的に返答を述べた

「悪いけど………」

傍に立つ友人たちの手前というのもあるのかもしれないが、特に理由を追及するでもなく
それでも溢れ出る涙は堪えきれなかったようで
静かに肩を震わせる女生徒と、それを慰める他の女生徒たちをあまり見ないようにして卓は
足早にその場を通り過ぎる








「───ふう」

チームメイトへ向かい蹴り上げたボールの鋭い軌跡を目で追いながら
卓はため息をつく

こういったことは、なにも今回が初めてじゃない
親からの遺伝子に感謝すべきなのかどうなのか、平均点以上の評価らしい容姿とそこそこに発達した運動神経のお陰で
年代を問わず女性からの受けは良くて
そんな自分の『ただひとり』になるべく名乗りを上げる者も少なくはなく

二クラス合同で行う体育の授業で自分を見初めたという隣のクラスの女生徒の、名前はもう忘れてしまった
ただ覚えているのは
俯いた頬に垂れる、肩のすぐ上くらいの長さで切り揃えた髪

『悪いけど』そういう対象として考えられないのは
なにも、あの女生徒に対してどうこうという意味ではないし
そもそも、恋愛の過程において派生すると思われる全ての行動が、考えるだけでも面倒くさい
夜遅くまで練習に明け暮れかろうじて食事を済ませまた朝から練習で……と
ただでさえくたくたな毎日のどこに、他の相手のことまで思いを馳せる余裕があるのか







そう思いながらも
つい無意識に目をやってしまうのは、揺れる髪
思い出してしまうのは
母のような黒髪でも妹のような直毛でもなく
金色の、羽のように踊る、ほわほわ











「真壁───! そっち返すぞ───!」
「!! お、おう───!」

再び帰ってきたボールを胸でトラップ
わらわらとやってくるチームメイトの妨害を巧みにかわしながらライン際ぎりぎりをドリブルで進んでいく




『ショートカットの女が好き』

いくらガキの時分とはいえ、我ながら馬鹿なことを口走ったものだ
いつも自分よりも前を歩こうとする勝ち気な彼女が胸を張って踏み出す、その一歩一歩に合わせて
目の前でやさしく揺れるその髪に
本当は触れたくて堪らなかったというのに

『その髪が伸びる頃には、おれも、少しは───』

それは約束でもなんでもなく、自分自身の希望でしかない
故に、なんの拘束力もない
そもそもあいつだって、五つも年下なガキの戯言程度にしか思っていないだろう
あれ以降ぷっつりと顔を合わせることすらなかったこの今の今までの現状が、何よりもいい証拠だ

「……………」

ガタイだけはお陰様でしっかり成長させてもらったけれど
本当に知りたいことは未だ全くもって謎のまま
女心はわからない───よく言われることだけれど
自分の場合は、それ以前の問題で

───現実を見ろ
下手に期待したって馬鹿を見るだけなのだから
当たらず触らずただのイトコ、そのままでいいだろう
大体、ああいうお嬢タイプ(「タイプ」ではなく実際そうなのだが)には
破天荒っぷりをうまく諌められるような、大人の男がお似合いなんだよ
そう思い込み言い聞かせ何事もないフリを続け今まで過ごして




けれどもふとした瞬間に
淡い期待の海へ引き戻される

───だって、じゃあ
なぜあのときあいつは髪を切った?

「……………」

悶々と、鬱々と、惑わされる波がまた来た
苛々する。───面倒くさいのは、何よりも
自分の感情に翻弄される今の自分自身

───じゃあ、おれはどうすればいい?








「お……おい真壁! どこ見てんだ! ボール奪られんなよ!!」
「え? ……───!!」

唐突に張り上げられたチームメイトの悲鳴にも似た声で我に返ると
ボールを目掛け伸びる足が既に至近距離のところにあって
避ける間もなく派手な音を立て、接触

バランスを崩してグラウンドに倒れ込みそうになった身体を
一本で明らかに間違った角度で支えてしまった右足首に
激痛が、走る───