その日は遊びに行くね
そう言っていた相手を待ちながら彬水は
約束の時刻を指そうとする時計の針を横目で見ながら
すっかりその相手専用となってしまったクッションの位置を整えた
暇さえあればちょこちょこと、自分の周りをくっついて回るのが自然な姿になってきた相手を
まんざらでもない と思っていたのがいつからか
その瞬間を心待ちにするようになっていた
とはいえ、そんな気持ちを全面的に押し出すほどの勇気も素直さも持ち合わせてはいないから
決して、待っていたとでも言いたげな素振りは見せないし、自分から呼び出すことはないけれど
味気なかったこの部屋に、密かにこうしてひとつずつ、彼女専用のものが増えていくことに
我ながら苦笑してしまう
約束の時刻を見据えて沸かし始めた湯も、そろそろいい頃合いだ
ピン・ポ───ン
軽快なチャイムの音が響く
コンロの火を止め玄関に向かいドアスコープを覗くと
満面の笑みを浮かべた、待ちわびた相手のアップ
学校帰りなのかと思いきや、よくよく見ると
「…………??」
そこはかとない違和感にとらわれながら扉を開けると
立っていたのは、真っ黒なマントを身につけた、愛良
「うふふふふ───」
「………正装、変わったのか?」
確か、以前見たことのある愛良の正装とやらは
白が基調のもっとふわふわした鳥のようなドレスで
こんな、『いかにも』なマントではなかったはず
「そうじゃなくて〜。“Trick or Treat!!”」
「……なんだ、それ」
「あ───…やっぱり知らなかった…」
愛良は、ふるふるとかぶりを振りながら、被っていたフードを下ろす
「?」
「ハ・ロ・ウイ・ン!
ほら、この時期外国で、子供が変なカッコして街をねり歩くイベントよ!
その時、『Trick or Treat!!』って言って、おかしをもらうんだって」
「ふうん……」
その手のイベントにはいまいち疎い自覚はあるが
いくらそういったイベントの時期だからといって
その格好でやってくるのはどうなのだろう(しかもここは日本だ)と思いながらも
ちょっと膨らませた頬も可愛らしいな、とか、頭の片隅で思ってしまっている自分はそろそろ重症
「うん、花屋さんだったら、知ってるかな? とも思ったんだけど
多分、かぼちゃ以外のことは知らないだろうな〜って思ってたから
自分でお菓子、持ってきました♪
新庄さん、甘いもの、大丈夫だよね?」
「え? あ、ああ………。……かぼちゃ?」
「じゃ───ん! 可愛いでしょう!?」
自画自賛しながら取り出だしたるは、不気味に且つ可愛らしく笑うかぼちゃを囲み
わらわらと細かな菓子が詰められたバスケット
「……ああ、これか」
そういえば、この、なんともいえない顔つきを彫りこまれたかぼちゃは
バイト先で見たことがある
この時期になると、なぜかミニカボチャの入荷がごっそりと加えられて
秋らしいシックなディスプレイの中、なぜにこんなコミカルなものがずらずらと並べられるのか
ずっと不思議ではあったのだが
──────しかし、この、かぼちゃ……
「ん? なあに??」
じっと黙ったまま、バスケットと自分とを交互に眺める彬水に
愛良はにこにこと問い掛ける
「いや………似てるなあ、と」
「なにそれ! ひど───い!!」
その格好、可愛いな とか
一瞬のうちに、数々の賛辞を思い浮かべ期待していたのが一気に崩れ去り
愛良はポクポクと彬水の胸を叩く
ぷうっと膨らんだ、でも憎めないファニーフェイス
そして何より、いつもにこにこと微笑んでいるさまを指した、褒め言葉のつもりだったのだが
どうやらうまくは伝わらなかったらしい
「いててっ。…ああ、悪かった悪かった
とりあえず、上がれ。その格好でそこに立ってるのも何だし」
「う〜〜〜〜〜〜……
おいしいカフェオレ入れてくれたら、許してあげるっ」
「はいはい」
ぷっと吹き出しつつ、部屋へと上がらせる
マントを脱ぎ、きちんとたたんで
(下に着ていたのは制服だから、どうやらマントは家の前で着込んだらしい)
定位置に敷かれたクッションに愛良が腰を下ろしたのと
ご要望のカフェオレを淹れ終えたのはほぼ同時で
「おいし〜〜い……」
湯気の向こうでふわりと微笑むその笑顔につられて、自分も笑顔になる
それはきっと、魔女であるとかそんなことは関係なく
ただひとり、彼女にしか使えない不思議な魔法
願わくばその魔法が自分に対してだけ施されるようにと
胸のうちで静かに乞いながら彬水は、目の前で笑うかぼちゃをじっと見つめる