クリスマスの朝。夜通し降り積もる雪も止んで外は一面の銀世界
朝から俊とひととおり雪遊びをしてきた卓は
今年のプレゼント───絵本と大きなぬいぐるみ───を抱えて
リビングのソファで編み物をしていた蘭世のもとへ、てとてとやってくる

「ねえねえ、ままっ」
「は・あ・い───。どうしたの、卓?」
「こどものところにしか、サンタさんはこないの?」
「え?」

蘭世の足元、カーペットに直に腰を下ろして
卓は、思わず手を止めてしまった蘭世の顔を見上げる

“子供のもとにしか、サンタクロースはやってこない”
蘭世にしてみれば、そんなことは
敢えて口に出さないだけの暗黙の了解ごとだから
瞬時にして卓の質問の意図を履き違えてしまって

「え……っと、卓……
もしかして、サ、サ、サ、サンタさんからのプレゼントが気に入らなかった……とか……?」

事前のリサーチも十分念入りに、且つ“ほんとうのこと”を悟られないよう
万全の注意をはらったつもりなのだけれど
もしかしたら、自分たちの前で口にしていたものとは違うものを
本当は求めていたのではないか、あるいは───

「あっ! ちがうよ!! プレゼントはね、すっごくうれしかったの
くまちゃんも絵本も、すっごく欲しかったの」
「そ、そう……。よかった……。じゃ、じゃあ……」

ほっと蘭世は胸をなでおろす
西洋風の豪奢な装丁の絵本と、ちいさな卓の腕では抱きしめても余りあるほどの大きな熊のぬいぐるみ
それをにこにこしながら抱えている姿は、我が子ながら本当に天使のように愛らしくて
さらにその上から抱きしめて頭をぐりぐりと撫でてしまいたくなる
天使は、小さなこぶしを握りしめて言葉を続ける

「うーんとね。ぼく、サンタさんからのプレゼント、ほんとにうれしかったから
ままにもぱぱにも、サンタさんがきてくれるといいなあ、って思ったの」
「……え」
「だからね、ぼく、ままの分とぱぱの分のくつしたも用意したんだよ
いっぱいいっぱいおいのりもしたの。でも……」
「卓………!」

その一生懸命な眼差しに、涙が一気にぶわっと溢れて
けれどそれを拭うのも忘れ、蘭世は足元に座る卓を凝視する
卓にとってみれば、唐突に泣き出してしまった母親を前にして
どうしたらよいものか判らず慌ててしまう

「うわあ!? ど、どうしたの、まま!? どこかいたいの? かなしいの?」

編み棒を握り締めた腕を取りぶんぶんと振りながら問いかける姿に
少しずつ平常心を取り戻しながらがしがしと目元を拭って蘭世はようやく応える

「う、ううん…ごめんね、ままってば…おかしいね
いたくなくてもかなしくなくても、涙がでちゃうのよ」
「そ、そうなの……?」

あたりをきょろきょろ見回して、卓はしゅたっと飛び去る
ティッシュの箱を運んできて差し出したのをありがたく一枚いただき目頭を押さえて握り締める

「うんとね───…
ままとぱぱは、こどものころにたくさんのプレゼントをもらったのよ
だからね、もうじゅうぶんなの」
「ふうん……?」
「……卓は、やさしい子ね。ありがとう」
「えへ」

にこりと微笑むと、ようやく安心して心から嬉しそうに微笑む
やっぱり、可愛い───本当に、たいせつなたからもの

「あのね、卓」
「ん?」
「ままにとってはね、卓やぱぱがいつも元気で笑っていてくれること
それがなによりのプレゼントなのよ」
「そっかあ……
じゃあ、ままのサンタさんはぼくとぱぱなんだね!」
「そうね………」

脇に手を差し入れ抱き上げて、ぎゅっとその存在を確かめるように抱きしめる
今この瞬間、あたりまえのことのように自分のとなりに在り続ける幸せが
本当に本当に嬉しくて
自分という存在が、あたりまえのことのようにとなりに在り続けることがきっと
愛する者の幸せのうちのひとつであることが
本当に本当に嬉しくて

「───あ、もうひとりのサンタさんが来たよ、まま───」
「───ん?」
「……あ、ホントだ……」

トレーニングでかいた汗を流し、洗い髪でリビングへやってきた俊を指差して、卓は笑う
俊は、なんのことやらさっぱり判らず小首をかしげながらこちらへやってきて

「………なんだ?」

ソファで抱き合った二人の頭をやさしく撫でる