9月9日 (すいようび) はれ
ぼくに、いもうとがうまれました
なまえは、あいらです


* * * * *



昨夜産気づいた蘭世と、あたふたするだけの俊と、ことの詳細をよく判っていない卓の三人は
久しぶりに江藤家へとやって来ていた
夜通し続く緊張感をよそに、すやすやと眠りについた卓が目を覚ましたころには
江藤家の空気は、穏やかさを取り戻していて
寝ぼけまなこをこすりながら階下へ降りてきた卓に、望里も椎羅も
ほんのりと赤みのさした目元で微笑みながら、なんだか嬉しそうに朝の挨拶をした
「おはよう、卓」
「おはようございます、おじいちゃん、おばあちゃん」
ぴょこんと頭を下げる孫の姿に目じりを下げつつ、望里は読んでいた新聞を折りたたむ
キッチンでなにやら忙しく準備をしていた椎羅も、振り返って微笑む
いつもの何気ない朝の風景のようで、ちょっぴり浮き足立った感のある雰囲気を
感じ取ってかどうなのか
5つ用意された席を眺め、きょろきょろとあたりを見回しながら卓は問いかけた
「あれぇ? ままと、ぱぱは?」
「───卓」
いつの間にかその後ろには
それまで姿の見えなかった俊がやってきていて
「ちょっと、こっちへ来い」
「へ?」
振り返った卓をひょいっと抱き上げ、リビングを後にした




「……は───い」
コンコンと小さく刻まれたノックに反応し、返ってくる高い声
ドアを開けると、奥のベッドに横になっていた蘭世は起き上がり、ふわりと微笑んで二人を出迎えた
「まま───。おはよう───」
「おはよう、卓……」
俊の腕からぽんっと飛び降り、卓は蘭世のもとへ駆け寄る
いつも早起きな蘭世が、未だにネグリジェ姿なのは珍しいこと
ぺたっと羽根布団にくっつき、卓は蘭世を見上げながら問いかけた
「どうしたのまま、おねぼうしたの? それとも、具合わるいの?」
「ん? ……ありがとう卓。でもね、そうじゃないのよ。あのね……
 ───あなた……」
「………」
卓の髪を撫でて答えながら、蘭世は俊に目配せをする
俊はこくりと頷き、ベッドの横にしつらえられたスペースに手を差し入れ
ゆっくりと不慣れな手つきで何かを抱き上げた
もつれるレースを手繰りながら俊は、卓の隣にしゃがみ込む
腕の中のそれを卓に見せながら、ゆっくりと諭すように口を開いた
「───卓」
「なあに? ぱぱ」
「この子はな……おまえの妹だ」
「…………」


ぼくの
───いもうと?


じっと卓は俊の腕の中の赤ん坊を凝視する
蘭世も、あとからこっそりと部屋にやってきた望里と椎羅のふたりも
その様子を微笑ましく眺めていた
「判るな? おまえはこの子の───愛良の兄貴なんだ
 泣くようなことがないように、おまえがずっと護ってやるんだぞ」
「……………」


指を伸ばし、おそるおそるそれにふれてみると
ふにふにと、桃のようにやわらかなほっぺは軽く指をはねかえす
ミルクのように白い肌はきっと蘭世譲りのもの
小さく寝息を立てる小さなその存在が、とても頼りないものに思えた


「うん…………。まかせといて
 ぼくが、護るよ」
「………そうか」
ふっと微笑みながら、俊がその小さな頭を撫でようとしたその瞬間
間髪入れずに卓は表情ひとつ変えずに続けた
「───ままは。」
「ああ!?」
愛良を抱いて下手に身動きの取れない俊の前をすり抜けて
卓は、蘭世の腰掛けるベッドにぽすんと寄りかかり、天使のような微笑みを浮かべた
「ね───、ままっ。ぱぱはあいらで手いっぱいなんだって!
 でもだいじょうぶ! ぼくがずっとそばにいるから安心してねvv」
「あら、ありがとう卓v 頼もしいわね〜」
「な……な……何言ってんだこのくそガキャ───!!」
「ま、まままかべくんっっ。愛良を投げちゃ駄目だ───っ」
何もかも放り出し、殴りかかりそうなイキオイでそこへ駆け寄った俊の背後から
絶叫しながら落下点へと滑り込む望里の声が広い家中に響き渡った




* * * * *

ずっとずっと、ぼくが
まもってあげようとおもいます
これからも、よろしくね