流石、水の石を超えた存在とでも言うべきか
彼女は水のようだと思うことがある
型におさまることなく、するりと簡単に俊の内に入り込むから
ただそこにいるだけで、静かに渇きを潤してゆく
そのくせ、ときに、激しい雨が雷を誘うように
俊の胸に衝動を呼び起こす
何よりも恐れる雷なんかよりもきっとずっと激しい自分の欲望を
彼女は本当に許してくれるのだろうかと
おそるおそる手を伸ばして
そのたびにいつも我を忘れて
奥深くまで触れずにはいられなくなる
その気になれば、部屋に入れない方法などいくらでもあった
日頃は全く使わない、ただお守り代わりに持ち歩いているという合鍵を使ってまで
彼女がここに踏みとどまったからなんてのは、ただの言い訳だ
さもなくば、背を向けて座った彼女に、息を殺してにじり寄る今の自分はどうだ
さらりと乾いた髪をかき分け、浮き出た白い首筋に口づける
甘い香りに酔いながら、細身の彼女には大きすぎるTシャツの裾から
簡単に忍び込ませたてのひらから伝わるそのやわらかさに、身震いする
堪らずぐいと引き寄せると、彼女はバランスを崩して
こてん、と俊の胸に寄りかかるように転がった
掴み上げるかの如く込めた力に、身を捩りながら控えめな声を漏らす
その唇を塞ぐ勢いに任せ、重なるようにくずおれる
別に、彼女を抱くこと・それだけになることが怖いわけではない
求める気持ちとたいせつにしたい気持ち それらが別物だと思うほど子供ではない
けれど本当のところ、自分の場合は果たしてどうなのだろうかと
ぐだぐだ御託を並べながら、迷いをぶつけるかのように彼女を抱いて
その答えまでをも彼女に求める自分を目の当たりにするのが苦手なだけだ
さんざん今まで泣かせたのだから、せめてこれからは そう胸に秘めながらも
いつのまにか彼女という海にたゆたう魚となっていた自分には
彼女を包み込むことなどできやしない
彼女がそこに在ってこその自分なのだと気づいたのは
本当はもうずっと前のこと
───甘える自分を許すことができるのは、いつ?
飽きもせず降り続く雨。窓を叩く耳障りな音のなかでも
彼女の声だけは、ほんの少しもこぼさずに選び取る
こんなときにしか呼ばない名前と
こんなときにしか囁かない愛
うっすらと額に浮かぶ汗と目許ににじむ涙に、点々と唇を寄せながら
彼女の耳に届くようにと届かないようにと乞い願う
そして今日も、彼女を泳ぐ