その街に今年一番の雪が降った。

「真壁くん! 見て見て! 雪だよ!! 今夜は大分冷え込むと思ったら、やっぱり!!」

外は、通行人もなく、しんしんと降り積もる雪の音が聞こえてきそうなほど、静まりかえっている。
窓際に立って、飽きることなく蘭世はしばらくそれを眺めていた。

「今年はホワイトクリスマスね、きっと」
「ああ……そうかもな……」

俊も隣に立って、ともに眺めてみる。いつから降り出していたのか、外は一面の雪。
隣家からもれる灯りを映し、ぼやけた輪郭で景色を形作っている。

「でも、明日、晴れるらしいぜ」

天気予報では、"さわやかな晴れ、洗濯日和"。

「そっかー……じゃあ、明日、起きる頃には解けちゃうかなあ……」

明日は休日。きっと昼まで目は覚めることはない。
さみしそうに笑い、すぐまた窓の外に目を向ける。

「じゃあ、ちゃんと見とかなきゃね。初雪」
「…………」

しばらく二人はぼうっと雪景色を眺めていた。冬にしか逢えないそれは、はかなげに空から舞い降り続ける……

「ねえねえ、真壁くん」

と、蘭世はそっと手を差し出し、俊の手に触れる。
それは、なんでもかんでも読むのは駄目、と二人で決めた、心を読んで欲しい時のサインだった。

「?」

蘭世の思いが俊に流れ込んでくる。

……たとえ、太陽に負けて解けてなくなっちゃったとしても、
この雪のように、またすぐに降り積もって、あなたを思うから……

ぶふっっ。俊は読んだ瞬間、吹き出した。

「……キザ……」
「やーっっ 何で笑うのよーっっ!! 信じらんない!
どれだけ真壁くんを好きか、っていう意思表示をしたつもりなのにー!!」

耳まで真っ赤にし、手を振り回して蘭世が抗議する。

「自分だって恥ずかしいんじゃねえか」

流石はボクサー。軽いフットワークでひょいひょい攻撃をかわしながら、俊は更にからかう。

「もうー!! 知らないっっ。あっち行って!!」

林檎のようになった頬を押さえ、俊を追いやり、小声でぶつぶつぶつ。
ひとしきり笑ったあと俊は、カーテンを自分の身体の幅ぎりぎりに閉めて
景色を独り占めしている彼女を背中から抱きしめ、耳元で囁いた。

「つーか、それ以前に、解けることがねえさ」

折角戻った蘭世の肌の色が、再び紅くなった。
俊の顔も、それに負けないくらい紅いことには気づかない。