その日、江藤家の面々は、魔界へ出かけてしまっていた。


そんな日に限ってその日は大雪。風も強く、がたがたと窓ガラスが揺れる。
そんな中、周りが気を遣ったのか自分が気を遣ったのか、一人留守番の蘭世をチャイムが呼ぶ。

「ご、めんね……呼び出しちゃって。でも、恐くて……」
「いいって、んなこと」

俊はコートに吹き付けられた雪を払い落とす。蘭世からタオルを受け取り髪を拭いながら部屋へ向かう……





「寒かったでしょ。まってて。コーヒー淹れてくるから」

暖房を効かせた部屋に俊を通し、キッチンへこもる蘭世。
その瞬間、派手に突風が吹いて、地響きがしたかと思うと、家中の電気が消えた。

「きゃああああああ!!」
「うわ」

いきなり闇に閉じ込められ、パニックの蘭世に、きわめて冷静に努めて俊が駆け寄る。

「おい、ここって、懐中電灯とか、どこだ?」
「え、えっと〜〜〜。どこだろう〜〜〜」

手探りで、棚をあさってみるが、それらしいものは見当たらず……

「これ……。ろうそくだわ。きっと去年のクリスマスの残り」
「……よし」

ぽうっ……小さな音をもらし、闇の中頼りない炎でそれは二人を照らした。

「はあ……。よかったあ、来てもらって。一人だったら、どうなってたか判んないよー」

蘭世が肩をすくめる。

「……なんか、いいね。たまには、こういうのも」
「そうだな」
「…………」

ぴとっ。蘭世が肩にもたれかかる。

「なんだよ」
「ふふ。くっついてたいの」
「……ふーん」

口では面倒くさそうに言っておき、俊は優しく肩を抱き寄せる。

「来年のイブは、どうしようね」
「ん?」

突然話題をふられ、ろうそくの炎に見入っていた俊が我に返る。

「去年は、神谷さんちでパーティーだったじゃない? 今年は、どうしよう? うちでパーティーする?」
「ん───……」

気が付くとあと2週間でクリスマス・イブ。去年のイブの日の自分の台詞を思い出し、顔が紅くなる。

「真壁くん?」
「……温泉でも行くか」

さりげなく目をそらして言い、蘭世の細い手を握る。

「うん!!」

極上の微笑み。



外は相変わらず強い風と雪。明日には落ち着くのだろうか。

「あったかいんだよね。ろうそくの炎って。実際、あったかいんだけど」

と、蘭世が炎にあいている方の手をかざす。
俊はろうそくを見るその横顔から目が離せなくなっていた。
儚い炎が蘭世の輪郭をぼんやりと照らし、なんだか時の流れもゆるやかに感じる。

「ふふふ。真壁くんが、いつもよりかっこよく見える」
「おまえも……」

ふと振り返った蘭世に、俊は言いかけた言葉を飲み込む。

「……。今、とんでもねえこと言いそうになった」
「え〜〜。なになにー?? 言ってよう〜〜〜」

握った手をぶんぶん振って蘭世が絡む。

「うるせえ」

その隙をついて、俊は蘭世の唇を唇で塞いだ。
肩からストールが落ちる。そのまま二人は絨毯を背に──────



───と、俊の腰にろうそくがぶつかった。

「うわ!? 消えた───!! マッチどこだマッチ!!」
「いや───。どこか行っちゃったよお〜〜〜」

再び闇の中、今度は二人そろって半狂乱で火の元を探す。
続きは灯りがもどってから……。