自分の手下が病院送りになったとき、そこに咲いていた一輪の花に、年甲斐もなく恋をしてしまった。
男やもめの自分にとって、年齢はブレーキにはならず、むしろはやる心を加速させる。
もともと鉄砲玉扱いだったその手下のもとに、見舞いを口実に通いつめたお陰で
声をかけてもらえるようになり、今では子供を預けてくれるまでになった。
(もちろん華枝としては、純粋に鍵っ子である自分の息子を気遣った上でだけの行動だったのだが)
そんなこんなで今日も彼はお手製のケーキを切り分ける。

「パパ、ただいま〜〜♪」
「おう、おう、おかえり。俊くんも、いらっしゃい。
さあ、手を洗ってきておやつをおあがり」

そう、この急接近は、娘・曜子が彼女の息子をえらく気に入ったこともよい追い風。

『わたしぜったい俊とけっこんするからね。
けんかも強いし、きっと神谷組の【あととり】になってくれるわパパ』

将来を夢見てそんなかわいらしいことを言う娘を前に、
親子同士結婚、というのも悪くないなとほくそえむ男・神谷玉三郎、39歳(推定)。

「きょうはねえ、俊、すごかったのよ。200メートル走でいちばんだったの」
「そうかそうか、さすがは俊くんだ」

親子で褒めちぎり顔を覗き込んでみると、

「すごくねえよ。みんな、おっせえんだもん」

と、ケーキをがしがし不必要なまでにフォークでつつく。
褒められても、単純に喜ぶのではなく、まず照れる。謙遜する。彼はそんな、子供らしくない子供だった。
きっと、華枝さんの教育がゆきとどいているのだろう……。
玉三郎は俊の姿を通し、いとしい相手を想っていた。

しばらく他愛もないおしゃべりが続き、玉三郎がちょっと席をはずしたすきに、二人はソファで眠り込んでしまっていた。
子供たちはよく動くからきっと疲れたのだろう。玉三郎は毛布を出してきて二人にかけてやる。
自分の娘のかわいい曜子。
そして、同じく眠る……あの人の息子。

「…………」

いつもはそれほど感じないのだが、目をつぶり、緊張のほどけた顔は、見れば見るほどあの人によく似ていた。
もう半分、誰かの遺伝子が紛れ込んでいるとはいえ、親子なのだから当然なのだが。

他に誰もいない部屋。二人の寝息だけが響く、静かな部屋。
邪魔するものは何もなく、狂う自分を止めるものも何もない。
……ごくり。息を呑む。

半開きになった半ズボンからすらりと伸びた脚をなでてみる。
子供だけが持つなめらかな肌。白い靴下がまぶしい。
俊の、そして曜子の目元を確認しつつ、そっと中心のジッパーを下ろす。
外に出ている部分はそれこそ野生児並に日に焼けているが、常に衣服に護られている部分は、あの人ゆずりなのだろう、
案外色が白くて、少女といわれても違和感がない。
白い下着の合わせ目に分け入り、まだ自分の無骨な指とおなじ位の太さでしかないそれに触れてみる。
自分のものとは比べ物にならないほどやわらかく、そしてまだ何も知らない純粋な彼自身は
たわたわと自分の指の動きに合わせて動く。
いつしかあの人の幻影は消え、目の前の少年の持つみずみずしい果実に、玉三郎はたまらず吸い込まれていく……

「……う……ん……」
「!!!!」

光速移動で飛びのく。一瞬呼吸も止まる。

「……パパ……?? どうしたの……??」
「え!? あ、あああああ、たったた体操だよ、曜子の話をきいてたら、パパも運動しなきゃと思ってね。
反復横とびの練習さ。オイッチニ、オイッチニ」

滝のように流れる汗。ちょっと気になっているお腹の肉を揺らしながら、我ながら苦しい言い訳。

「ん〜〜〜……そう、なんだ……」

ことん。ふたたび眠りに落ちていく娘。
……ぐったり。

久しぶりの運動は心臓に悪いけれど。
自分の娘と同じ年代の子供に手を出すのは犯罪だけれど。
自分の娘と同じ年代の少年に手を出すのは……もっと……
甘美で胸が高鳴ることに気づいてしまった、男・神谷玉三郎、39歳(推定)。



その後俊は、曜子とずっと同じ学校に通ったし、玉三郎の経営するジムに通ったりもしたが、
ただならぬ気配を感じたせいなのかどうなのか、その後も必要以上に
玉三郎になつくことはなかったという。