ずっと気にしないようにしていたのだけれど、それでもどうしても気になってしまうこと。
それは、あの試合の後あたりから。
部屋に帰り鞄の中身を出すときにテキスト以外の物が増えた。
ピンクやらブルーやら、彼らしくないセレクトの……封筒、封筒、封筒。
「…………」
俊はそれを、後ろめたいことがないことを示すように常に蘭世の前で出し、
まったく興味ないことを示すように、ゴミ箱へと直行させる。
「……なんで」
「ん?」
「なんで、封も切らないで、捨てちゃうの!?
相手の子はすっごく悩んで悩んで、それでも真壁くんに気持ちを伝えたいって決心して、
勇気振り絞って書いたものなのに!!」
──────違うの、こんなことぜんぜん思ってない。
「そのまま捨てちゃうなんて、絶対、だめ!!」
──────本当は、それでも『関係ねえよ』って皮肉っぽく笑ってほしいの。
「……ふうん」
俊は、蘭世の顔を探るような目で一瞥して、ゴミ箱に伸ばした腕を戻す。
「……悪かったな。気をつけるよ」
「あ…………」
ぺりり。適当にセレクトした封筒の封を切る。
「あ、こいつ知ってるわ、確か日野が騒いでた……1年の間でも有名な女。
すげえ、かわいいとかなんとか。ふーん、こんな文字書くのな」
「……へ、へえ……そうなんだ……」
──────やめて。
「なになに……『ずっとあなたが好きでした』だってよ。どうする?」
「…………」
蘭世は黙って微笑む。
──────そんなもの、奪って破り捨ててしまいたい。全部。
「……でも、おまえが割とこういうことには寛大なのにはびっくりしたよ」
「……えっ……」
「普通、こういうのって気分悪いとかいうじゃねえか。それを、読んでやれ、だもんな。……すげえよ、お前」
「……そんな……」
声が詰まる。スカートの裾を握り締めてようやく声を出す。
「……でも、ちゃんと……返事……とかも、して……あげないとね」
──────違う、違う、違う。
「……そうだな」
「…………」
「ちょっとこれを機に、字の練習するか」
長い髪が隠した、うつむく蘭世の表情。
しばらく沈黙したあと、俊が一つため息をつく。
「……いったいどうして欲しいんだよっっ! 泣いてたって判んねえだろっ」
静かに震える蘭世の両肩を掴み、そのまま畳に押し付けた。
首筋を軽く噛み、唇を合わせようとする。
「…………っっ」
蘭世は、覗き込まれる自分の顔を両手で覆い隠す。
「なん、だよ……」
「…………やっ!! 見ないで、今のわたしの顔!! すっごく、イヤな顔してる!」
──────そう、言葉だけ、口先だけ、いい子のようで、ホントはいやらしい自分。
「…………」
壊れものを扱うように静かにやさしく、俊は蘭世の手の甲それぞれにキスをする。
シャツのボタンを三つ目まではずして左の鎖骨の下の辺りを痛いくらいに吸う。
肌を合わせるたび、いつも俊はそこに唇をあてていた。
所有の証。消えない刻印。
「……ん」
脚を指でなぞる。ゆっくりと、上に向かい、そして。
「……泣くくらいなら、変なこと言うな」
曲げたひざ小僧に鼻の頭をくっつけぼそりと呟き、
開かせた脚のつけねに顔をうずめて味わう。急ぎだす呼吸。震える身体。
「……は、あ…………んっっ」
わたしだけを見ていてほしいの、他の子が呼びかけても振り向きもしないで。
「女には興味ない」そんな全否定じゃなくて、
わたし以外の女の子には興味がないって、「わたしだけを」好きって言って。
わたしが隣にいないときでもわたしの存在を傍においていて。
想いは言葉になることはなく、一心に俊の行為を受け入れる。
触れ合う肌の温度が高まる。
隣で静かな寝息を立てる蘭世の、軽く握った手をとる。
「まだ、不安なのかよ……」
指と指を絡めてみても、反応はない。
「……ったく……不安がるのは勝手だけど」
そっと指を離し、さりげなく細い身体の左右に腕を移動させる。
「こっちまでドキッとさせるような台詞吐くなっつうの……。聞いてんだろ? おいっっ」
「ひゃああああっっ」
突然わきの下をくすぐられて、思わず悲鳴を上げてしまう。
「や、やだっ! 真壁くん、くすぐった……きゃはははっっ!!」
「…………じゃあ」
がば。音がしそうなほどに俊は蘭世の背に勢いよく腕を回し
力いっぱい締め付ける。痛いけれど、折れそうだけど。なぜかどこか気持ちいい。
「……もう、あんな、……おれがどこに行っても気にしねえ、みたいな台詞、言うな」
言うだけ言って、返事をしかけた蘭世の唇を奪う。
にじんだ涙もかまわずに、蘭世も俊の唇を求めた。
──────熱く、強く、いつも心を奪っていたい。奪ってほしい。