『愛してる はやく結婚したい』
『なにがおきようとも、おれのきみへの愛はかわらない』
助手席で、流れる景色を眺めながら、蘭世は頭の中で俊の言葉を反芻していた
同じ顔 同じ癖 同じ声で
そんな嬉しすぎること言わないで
だって現実の真壁くんは、わたしのことをわるふざけがすぎるって殴ったの
自己中心的すぎるって言ったの
現実の真壁くんは、わたしのこと、ほんとはきらいなんでしょう?
だからこの世界の真壁くんはこんなにやさしいんでしょう……?
「ん?」
横顔を盗み見た蘭世に気がつき、俊は車を止め、こちらを覗き込む
「ううん……」
遊びでも優越感でもなくて、その逆なのに
わたしはただ、真壁くんが神谷さんと一緒に居るのを
じゃましたかっただけなのに
どんなにがんばっても真壁くんの前では自信がもてないでいるのに
「なんでもないの……」
「だって、何だか泣きそうな顔してるよ」
泣きそう という単語が言霊のように蘭世の胸に響いて
どんどん涙が溢れてくる
「〜〜〜〜〜」
「…………蘭世」
そっと肩に手を添え、俊は蘭世の目元に唇を寄せる
ああ、真壁くんてば
涙の拭いかたまで全然違うのね
そんなに優しく髪を撫でられたら、わたしどうにかなっちゃいそう
だってあなたもやっぱり真壁くんなんだもの
「キスして、いい?」
耳許で俊が甘く囁く
こくん
蘭世は無言で頷く
目の前の俊のくれる口付けは
現実のそれとは比べ物にならないくらい長かったけれど
これは鏡の中の世界なんだから という蘭世の中の戒めを解くには
充分すぎるくらい甘かった
車の中の空気もゆっくりとその意味を変えていき
助手席のシートは二人分の重みに耐えることになる
少し狭くて身動きも自由にとれない中、荒い息を隠すこともなく
髪に肩に俊の愛撫を受けていた蘭世はとうとう耐え切れなくなり
思わず声を上げた
「……っ! 真壁くん……!!」
「――――どうした!?」
「え」
…………
身の周りを見るとそこは俊の部屋で、蘭世は俊の隣に横たわっていた
突然変わってしまった風景に驚き、蘭世は大声を上げる
「えええええっっ!?」
「うわっっ」
「えっと……」
「えっと、じゃねえよ……。すげぇ魘されてたぜ、おまえ」
「魘されて……って……」
じゃあ、今までのは……夢??
真壁くんの言葉も、涙を唇で拭ってくれたのも
そしてそして……うわああああああっっ
じゅわっ と音がしそうな勢いで蘭世の頭に血が昇る
「え」
「な、な、なんでもないのぅ〜〜〜〜」
ぶんぶんぶん
顔の前で手を振り火照った頬を隠す
お願い、真壁くん
今は、今だけは絶対わたしの心を読まないでぇぇぇぇ
と蘭世が思った瞬間に、俊の顔が耳まで真っ赤になった
「お……おま……っっ、それ、なんっ……」
「……いやぁぁぁぁぁっ! 読んだのね! 真壁くんのエッチ!」
「エッチって……どっちがエッチなんだよ
ていうか、お前がデカイ声で考えすぎなんだろーが」
「う〜〜〜〜〜〜」
言い訳とも責任転嫁ともとれる言葉を背中に蘭世は枕に顔をうずめた
いや〜〜〜 真壁くんの顔、まともに見れないよう……
だってだって…………っっ うう、あんな夢見ちゃったわたしのバカっっ
「…………」
「〜〜〜〜〜〜」
「なあ」
「〜〜〜〜〜なぁに?」
返事はできても顔は上げられない蘭世
「なあ、こっち向けって」
「いや〜〜〜」
「…………」
俊は無言で、がっちり枕を抱いた腕をほどき、半ば無理矢理自分のほうを向かせた
目の前の俊はニヤニヤ笑っている
「〜〜〜っっ いじわる……っっ」
恥ずかしさに耐えきれず蘭世が目をぎゅっと瞑った
そのとき
蘭世の唇にゆっくりと俊の唇が触れた
歯列をなぞり、下唇を優しく噛み、奥まで探るように舌を絡めあわせる
「…………んっ」
「…………」
ひとしきり味わい、吐息がもれはじめた頃、俊は蘭世の唇を解放した
「…………はあ……」
くてん
蘭世は俊の胸にもたれて溜息をひとつ
……やっぱり、現実にはかなわないよぅ、真壁くん……
「……当然だろうが」
「……え? なにか言った……?」
「なんでもねぇ」
蘭世が一息つく間もなく、俊は次の策に乗り出した
……夢の中の自分に負けてたまるか
つーか、隣であんな喘ぎ声出されて我慢できるかっつうの