「今日、学校でね、同じクラスのかおりちゃんに、おかあさんのこと褒められちゃった」

しゃくしゃくしゃく
母親譲りの美しい髪を洗ってやりながらその日学校であったことなどを尋ねていると
ふと、愛良が思いもかけないことを言った

「え? おかあさんのこと……って、なんて?」
「え〜とね…………
最初は、愛良ちゃんのおかあさんていくつ? って聞かれたの
答えてみたら、かおりちゃんのおかあさんと2歳しか変わらないんだって」
「あら、そうなの」

そういえば……
蘭世は、このまえの授業参観のとき
隣に並んで授業を眺めていたお母さんの姿を思い出していた
確か娘さんが『かおりちゃん』だと言っていたような言ってないような……

「そしたらね、かおりちゃん、愛良ちゃんのお母さんてキレイだよね〜 って」
「あらら」

シャワーの温度を確かめ、ゆっくりと泡を流していく
相手は子供だとはいえ、やっぱり褒められるのは嬉しいものだ
心なしか、蘭世の動作が愛良にまで優しくなる

「かおりちゃんのおかあさんも言ってたんだって
『愛良ちゃんのおかあさん、お肌ピチピチでうらやましいわ〜』って」

ぷるぷるぷる 
顔に垂れる雫を振り落とし愛良が続ける

「それでね、お肌ピチピチの秘訣が知りたいから、使ってる化粧品とか教えて欲しいんだって
かおりちゃんもね、『うちのおかあさんお化粧を落とすとシミだらけだし眉毛もないし
すごいことになっちゃうから、絶対教えてくださいって言っといて』って
すごい必死なの。おかしかった〜」
「う〜ん……大事なのは夜のお手入れかなあ……
えっと、おかあさんはね……」

ぱた
蘭世の動きが止まる

******

それは愛良が生まれる前・卓が生まれてしばらく経った頃のこと
あとはもう寝るだけになり、寝室のドレッサーで蘭世は睡眠前のケアをしており
その後ろで俊は、ベッドに腰掛けその一部始終を眺めていた

「しかし、よく順番まちがえねえな」
「へ?」
「いや……どこからどう見ても、同じ瓶にしか見えねえから」
「あ……あはは。そうよね」

確かに
ドレッサーにずらりと並んだ瓶は、同メーカーライン使いのため
どれもこれも似たようなデザインだった

「でも、例えば男の人が車が沢山並んでたら、どれがどの車種だ、って
すぐ判っちゃうのと多分おなじようなものだと思うわよ」
「なるほどね」
「あ、でもわたしもたまによく判らなくなるから
左から、使う順番にそろえて置いてるんだけどね」
「……って、これ全部使うのかよ」
「そう。あ、髪につけるものも並んでるけど……特にお肌がね。
妊娠とか出産すると、女の人は体質が変わるっていうけど、ホントだったわ。
なんだか、ほっとくとつっぱってるっていうか……」

頬を押さえて小首をかしげる そんな動作が俊は大好きで
後ろから蘭世を抱きしめる

「エヘヘ。わたしもそろそろ、おかあさんたちみたいに鏡の間にお世話にならなきゃかしら」
「そんな必要ねえよ」
「え。……って、あ・あなた??」

ひょい、と蘭世を抱き上げ、俊はベッドへと移動する
ピンクとブルーの枕が仲良く並ぶ広いベッドにゆっくりとその体を降ろし
ネグリジェのボタンをひとつずつ外していく

「あ〜、ま、まだお肌のお手入れが残って……」
「いや、だからもういいって」

俊は蘭世のうるさい唇を自らの唇で文字通り口封じし
ネグリジェの裾から手を差し入れ出産後とは思えない体のラインを
つかず離れずの触れ具合でゆっくりとなぞる

「え〜ん、だってぇ……」

……まだ言うか
今度は少し乱暴に、以前よりもサイズの増した胸の膨らみを
掴み挙げるように揉みしだく
やわらかく歯を立て甘噛みすると心なしか声が艶を増していく

「……ん……」

すこしずつ力が抜けていく腕を袖から抜き、鎖骨から腋にかけて舌を這わせながら移動
俊の髪のひと房がかすかに触れ、くすぐったい

「…………待たせすぎなんだよ」
「……え……? っあ……」

臍のあたりに顔をうずめ、ぼそりと俊がつぶやく
さっきからその指は、もうひとつの入り口のあたりをうろうろしている

「……だから。今後は、気になったらおれに言え。いくらでも治してやるから」

…………こんなやり方しかできねえけどな
薄く微笑んで、唇をあてる

「…………んっ」
「大体、あんなにごてごて塗りたくったら、苦いんだよ……おれが」

…………こっちの甘苦さは全然問題ねえけどな

「…………」

それ以来、蘭世のドレッサーに化粧品が並ぶことはなかった



******



しゅわわわわわわ
音がしそうな勢いで、蘭世の顔が紅潮する

「きゃあ!? お、おかあさん! どうしちゃったの!?」
「〜〜〜〜え、あ、いや、ご、ごめんね愛良、なんでもな……」

言葉とは裏腹に、頭がくらくらしてくる
長湯しすぎたのもあるかもしれないけれど……

「なんでもなくないよぅ、おとうさ〜〜〜ん!
おかあさん、のぼせちゃったみたい〜〜〜!!」

半狂乱になり俊を呼ぶ愛良

ち、違うのよ〜〜
でも、まさかおとうさんのおかげよ、なんて言えないし……どうしよう……
薄れていく意識の中、蘭世は、明日の予定をぐるぐると思い起こしていた

次の日
駅にほど近い大き目の本屋には、コスメ関連の雑誌を端からよみあさっている
蘭世の姿があったのだった……