部屋に連れ込んだ電話機を複雑な表情で眺めながら
蘭世は悶々と悩みつづけていた
「掛けたいなぁ……」
ふと受話器に乗せたままの手に力がこもる
あまり掛けたことはなくてもとっくに暗記した番号を押すべく、ボタンにのびる指
「……でも、なあ……」
結局、意気消沈した手先は
再び受話器の上でおとなしくなる
「……だってさっきまで会ってたじゃない……
掛けたら絶対変だって思われちゃうよぅ……」
ふう、とひとつため息
「…………でも、なあ…………」
さっきから、この繰り返しが続くこと、小一時間
おかしいね
出会った頃は
学校で会える、ちょこっと喋れる、ただそれだけでよかった
それが今じゃ
学校だけじゃなくて
あのひとの部屋でふたりきりで会う、なんて
あの頃では考えられないほど幸せな時間を
あの頃よりも長く過ごしている筈なのに
おかしいね
どんどん贅沢になっていく自分
そう頭では判っている筈なのに
十分すぎるくらい幸せなはずなのに
それでも、「もっと」を求めている自分
再び、深いため息をつく蘭世
その瞬間
目の前の電話機がにわかに鳴り響く
ディスプレイに浮かんだこの番号の主は
「……! もしもし? 真壁くん!?」
『!? ……江藤……か?』
「う、う、うんっっ!!」
今いちばん声を聴きたくて、でも聴けずにいた人
うわああああああああ……
と、今にも叫びだしそうなのをこらえるのが精一杯で
「ど、どうしたの?」
いざ、本人を目の前(?)にしても、ありきたりな台詞しか出てこない
『……どうしたのって……』
しばしの沈黙
そう、言葉の足りない彼が自ら掛けてくるなんて
もしかしたら重要なことがあるかもしれない
そう思い当たった蘭世は、少しだけ、冷静になる
しかし、彼が口にした言葉は意外なもので
『…………もう寝たかと思って』
「ぶっ」
蘭世は思わず吹き出してしまう
『……なんだよ』
「え…………だって……」
だっておかしいよ真壁くん
寝てるのに電話してきたら
起きちゃうじゃない
今みたいに電話を部屋に持ってきてなくても
ううん、持ってきてなかったら尚更
誰かにわたし、起こされちゃうよ
「……あ…………」
わたしの声が、聞きたかったのカナ? ……なんて……
『〜〜〜そんなんじゃねえよ!』
「…………」
……ほら、わたしの考えてること、離れてても読めちゃうじゃない
寝てるかどうかを知りたいのなら
電話じゃなくても、真壁くんなら簡単なのに
『〜〜〜〜〜〜///』
「…………えへへ……」
どうしよう
こんなに幸せで
どうしよう
こんなに嬉しくて……
「ねえねえ真壁くん」
『……ん?』
いつもより耳元に近く聴こえてくる声は
いつもよりほんの少しだけ甘く響く
「わたしの部屋にも電話引こうかなあ
そしたら、おやすみコールが毎日できちゃうしv」
『……勝手にしろ』
「……そしたら、もしかしたら
離れて見る夢の中でも会えちゃったりするかなあ……?」
最後のひとことを蘭世は、口にはしなかったけれど