あれ……? ここ、どこ……?
カーテンの合わせ目からやさしく漏れる陽の光に促されて
彼女はふと目を覚ました
見慣れない、染みのついた天井からゆっくりと視線をおろす
やっぱり見慣れない漆喰の壁に、すこし色の褪せた畳
鼻先まで被さった薄手の掛布団をかきわけながら顔を横へずらすと
目の前3センチも離れていない場所に、静かに寝息を立てる彼の顔がある
……あ、そうか……
ここ、真壁くんの部屋だ……
あのあと
三人で公園を後にしてまず神谷家へと向かい、そのあと二人で歩いて
一度は江藤家への道のりを進んだものの
どちらからともなく指を絡めて
どちらからともなく手を繋いで
肩を寄せあって歩くうちに、だんだん離れがたくなって
どちらからともなくこの部屋へと続く曲がり角を選び
彼女はこの部屋に初めて足を踏み入れた
…………男の子の部屋ってこんなものなのかな…………
広く感じるのは、殺風景なまでにモノがないからだろうか
とるものもとりあえず、彼は出て行ったのだし
急ごしらえな部屋であればなおのこと、なのかもしれないが
彼だけが人間だったころ、何度か覗き見た彼の部屋も
余計なモノにあふれてはいなかったことを思い出す
「……ん…………」
不意に彼が寝返りを打つ
その腕がゆっくりと伸びて、布団ごと彼女の身を強く抱き寄せた
…………っっ……
いつもの彼らしからぬ行動に、心臓が口から飛び出そうなのを抑えつつ
息を潜めて様子を伺ってみても、何ら他の動作を起こす気配がない
それはきっと無意識の行動で
ということは、眠りに落ちたままだということで
彼女は身動きをとることも憚られてしまい
けど、動きたくもなくて
頬に伝わってくる彼の鼓動を楽しむ
───おれにはおまえが必要だということは ごまかしようのない事実なのだから───
あのときの彼のささやきが、今も耳に残っている
傷つき砕け散った心を一気に癒してくれた
夢のような、魔法のような言葉
自分にとってかけがえのない、たったひとりの存在、その人が
自分を求めてくれたということ
自分という存在が、ただ
その人のためだけに在るのだと思えるということ
ずっと、好きだった
でも、遠い存在であるかのように思えたりもした
ふたつの心がようやく溶けあい、混ざりあうことができたという実感
…………あ、やだ、どうしよう…………
甘い涙が溢れ出す
どうしよう、こんなに嬉しくて
胸のうずきがおさまらない
………………っ…………
声も顔も押し隠すように彼女はその身を摺り寄せる
心の声すらも響かせてしまえば、彼の耳には届いてしまう、そんな気がして
その能力は失われてしまったというのに
けど、それでも、ひとつだけ
ねえ真壁くん
わたし、ずっとここにいて、いいのよね……?
「 」
その問いかけに応えるかのように、彼の腕に力がこもり
うわごとのように口にした言葉は、彼女にしか聴こえない
…………わたしも、もう、離さないから…………
彼女のたたえた笑みはこの上ない幸せに満ちていて
再びふたりは心地よいまどろみに身を任せていく