卓ココSSSまとめ / お題等お借りしたもの
お題箱 同棲カプのゆるい話
231124-01
気の迷いでセクシーな下着を買ってしまったココ。「本当に使うのか?」手に持ったまま、暫し心の中で自問する。背後で卓が鼻血を出しながら凝視しているとも知らずに。
買い物、特に衣類については、店内や試着室ではいい感じに見えウキウキで購入したのに、家に帰ってよく見たら意外とそうでもなかったと落胆してしまうことが、往々にして起こり得る。いまのココの状況がまさにそれだ
ついさっきまでココは卓と一緒に出掛けていた。行ってきたのは、最近駅前にできたばかりのファッションビルだ。目的は、冬のコートを新調すること。コートであれば卓の、ある程度客観的な意見も取り入れながらの購入になるのでそんな失敗はないし、実際に、買ってきたコートは一ミリの後悔もなく気に入った。ただし、他の商品については……
そのコートを買ったあと、卓が下着を買い増ししたかったのだと思い出したように口にした
他の衣類ならともかく下着では、ココには建設的な意見を述べられそうにないし、なによりショップに同行しづらいので、ならばついでにココも自分の下着を見てこようと、その瞬間だけ完全別行動となった。そして向かった先で購入したのが、いま手にしているこの下着セットだ
『本日のおさらい』ではないが、衣類を買うと基本的にココは、家に帰りつくなり寝室に籠り、買ってきたものをひととおり身につけながら着用姿を再確認する。そんなココの習性を知っているので、卓はその間、お茶とおやつの準備をしながら、満足したココが出てくるのを待つ、あるいはごくたまに招待客として参加してみたりするのが常となっていた。いまもその儀式の途中で、ココはベッドに割座で座り、目の前の姿見に映る自分の姿と手元の下着セットを呆然と見比べていた。そこに、なぜか背後から突然、呼んでもいない卓の声がかかったのだった
「…………なにしてんの」
「きゃあ!?」
いつの間にか部屋にやってきていたらしい卓が、おもむろにココのすぐ隣に腰を下ろす。ココは驚きのあまり取り落とした下着を慌てて拾い上げた
「び、びっくりした……。もう! 居るなら居るって言ってよ!」
「いやいや、二回くらい呼んだぞ? なのに全然反応ねえから……。そんなことより、なにそれ」
「なにって……」
と、卓はココの手元を指さした
なにと訊かれても……しばらくこの部屋でこちらを眺めていたのなら、それが何なのかはとっくに分かっているのだろうし、イジってくれたほうがかえって楽なのだが……そう普通な感じで来られると……
「……店員さんがすごく勧め上手でね。調子に乗って買っちゃったんだけど……。冷静になって見てみたら、あの、いかにもすぎるかなって……デザインが……」
「そう? いつもの……ビスチェ? だっけ? 紐とかホックとかすげえいっぱいある鎧みたいなやつより、こっちとしては助かるけど」
「鎧……」
「まあ、即ひんむくからデザインはなんでも。おれはラッピングにこだわらないタイプ」
「ええ~……」
あ、違う。これは、普通な感じというよりも、関心が無いということなのかも。そんな、着脱の手間だけを挙げ、あとはどうでもいいと言い切られるのも、ちょっと。とはいえ、褒めちぎられてもそれはそれで反応に困るし、そもそも勝手に買ってきたものだし……
依然下着を握りしめたまま、思考回路がぐるぐる回り始めたココの頬を、卓はつんとつついた
「ウソウソ。めちゃくちゃいいって」
「……そ、そう……?」
「うん。折角だし、そんな、当てるだけじゃなくてちゃんとつけてみろよ」
「え?」
「あ、いや、つけさせてくれよ。いつも脱がせるばかりだし、たまには逆もアリじゃね?」
「ええ!?」
にこにこと曇りなき眼で卓はそんな突飛な提案をしてきた。確かに逆パターンもありかも……って、そんなこたあない。特に最近、卓は、さわやかな笑顔で申し出れば、ココが大概のことはコロッと絆されると思っている節が見受けられるが、それは大きな間違いだ。けれど、よくよく考えてみれば、断固として拒否する理由も特に見当たらず、結局頷いてしまうのだった……これが『コロッと絆される』ということなのだろうけれども……
◇
卓は件の下着セットのうちのひとつ、ブラの両肩紐を指先でつまんで目の前に掲げ、しばらく真顔でまじまじと眺めていた。濃紺色をベースに、ふんだんにラメ糸が織り込まれたレース、細い真っ赤なサテンリボンや色とりどりのフラワーモチーフがあしらわれたそれを、目がチカチカしてくるな と一言で総括した(そして、「いや、いいけどね?」と、とってつけたように追加した)が、冷静になった今となっては全くもってココも同意見だった
見慣れてきたせいもあるかもしれないが、その下着はそもそも、テレビや街頭ビジョンで大々的にCMを出している一般的なショップで購入したものなので、そこまで煽情的なデザインなわけではない。多分。ただ、ココの手持ちのものと比べると、色彩のコントラストが強烈なだけだ。見慣れてきたせいかもしれないが
「つけるときのコツとか、しっくりくるポジションとかあるのか? これ」
「ポジションって……」
「なんか、防御力低そうな見た目なのに、ところどころ変に硬いから」
「なるほど」
「野郎はそれなりにあるけどな。おれは左」
「そうなんだ……。あの、右利きだからそこで重心のバランスとってる感じなの?」
「…………。概ね正解だけど……さらっとぶっこんでくるよな……」
「え?」
「いやなんでもない」
「?」
なにやら卓は言い淀んだが、これ以上突っ込んでくれるなという顔をしているのでさておくとして、ココは目下の課題を処理することにした。とはいえ、ポジション……。そんなことを改めて問われても、いつも特に意識せず執り行っている動作なので、言語化するのは意外と難しい
なので、一連の流れをやって見せることにした。上半身すべて衣服を脱ぎ、件のブラを手に取ると微妙な顔をされたので、それまで身につけていたものを使用する。今日はたまたま、卓が言うところの鎧ではなかったのが功を奏した(……功とは?)
「ワイヤーの位置くらいかしら。中心を合わせて、高さはこのへんで……」
「あ、胸が始まるとこ?」
「始まりっていうか終わりっていうか……まあ、そう。で、カップに胸をいったん仮で収めて、ホックとめて」
「ほうほう」
「で、あの……胸をカップの中心に向かって脇からぐっと引き上げて、整える感じで……」
「おお~……」
と。ひととおり説明してみたものの、うまく伝わったかは分からない。しかし、相槌を打ちながらおとなしく聞いていた卓は、目の前のでき上がり状態を眺めながら、謎の感嘆の声をもらした
「なるほど、『寄せて上げる』ってそういう……。誰が考えたのか知らんけど、そのまんまだな」
「え、そこ? ま、まあ……そうねえ……割と直球。といってもそれの場合は、目的がちがうっていうか……そこまでのホールド感はないけど」
ついでに言うと『勝負下着』とかいうのもある。そのフレーズの印象に引っ張られているせいか、この手の下着について、ココ的には武器のつもりでいたのだが、先ほどから卓が口にするのは鎧だとか防御力だとか、完全に真逆、防具のイメージでいるらしいのがなんだか面白かった
「へえ。確かに、装飾はぴらぴら無駄に多いけど、肝心の布の面積は少ないよな」
「布……」
厳密に言えば装飾も布素材なので、表面積を考えたらむしろ多めになるのだが、まあ言いたいことは分かる。だとしても、布……。それを言っちゃおしまいというか、実も蓋もないというか……
「うん、まあだいたい分かった。……いつもつけるとこ見てるのに、意外と分かってなかったな」
「見てるの!?」
「そりゃ見るだろ。直前までゆさゆさ揺れてたのがうまいことお行儀よく収まってくもんだなと思っていつも感心してる」
「…………」
「とりあえず、いざ実践だな」
「はあ……。じゃ、じゃあ……」
と、卓はココの背後に回った。たったいまつけ直したばかりのブラを外し、件のブラの肩紐に腕を通してココはかがみ込む。姿見に映るのは、四つん這いになった胸元でブラがぶらぶらと揺れている、なんとも微妙な光景だ。ブラだけに。……なんなんだろうこの状況。そして我に返ったのはココだけではなかったらしい。卓は突如、我慢しきれなかった咳をもらしたかのような、妙な吹き出しかたをした
「なんか……なにやってんだって感じだな。この姿勢だけでめちゃくちゃエロいし」
「ちょっと!」
「いや素朴な感想だから。ハイむこう向いて」
「もう……」
我に返ったとしても初志は貫徹するつもりらしい。脱力しながら向き直ると、説明どおりのポジショニングで背中のホックが留められた。仮位置で収まってはいるがなんとなく居心地が悪いままでいる乳房に、後ろから覆いかぶさった卓の手が脇下から伸びる。そしてこれまた説明どおり、それなりのホールド力を持った布……じゃなかった、カップの形状に沿わせて、ほどよく整えて行く予定……なのだが
「えっと……卓?」
「なに」
「なんか……さわりかたが、ちょっと」
「いや、そりゃこうなるって……。後でちゃんとやり直そ」
「後って! もう………、っ」
卓の手は、あからさまに目的が異なる手つきでココの胸元を漂った。ぎゅっと押しつぶしてみたり、しばらく撫でていた芯を指で挟み込み、こりこりと捻ってみたり。留めたばかりのホックは再び外されて、いつの間にかシャツを脱いでいた卓の肌と背中がぴったりと添う。項を辿っていた唇は静かにその中心を甘く食んだ
ココの体のラインを、つかず離れずの力加減で指先が辿っていく。片手で器用にファスナーを下ろされ、ベッドについた膝の裏にスカートが頼りなく落ちた。それに紛れて、後ろから覆い被さった卓が今度は自分のジーンズのファスナーをおろす。ぐっと腰を引き寄せられ、じりじりと広げられていく内股から尻にかけて、探る指先だけでなく、硬く熱を持ったなにかが当たる。なにかといってもその正体が分からない筈もなく、問題なのは、それが触れる箇所がなんとなく左寄りだということ。それに気づいた瞬間、どこかへ追いやられかけていたココの意識は唐突に立ち戻った
「…………あっ」
「ん?」
「左……」
「~~~~~っ。いまそれを言うか……!?」
それこそ素朴な感想を述べただけだったのだが、確かにいま口にすることではなかったかもしれない
ココの上から被さったまま崩れ落ち、ツボにはまって爆笑する卓がついた肘のすぐ横、ココが畳んでおいた衣服のいちばん上から、完全にその存在を忘れ去られていたショーツがするりと落ちていった
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卓ちゃんはココ姫に無限にお金をかけそうですが、『布だぜ!?』と言いそうなタイプだなとも思います
お題箱 同棲カプのゆるい話
231022-02
ハロウィンの時期。「卓にいたずらされないため」……そう言い訳をしながら季節物のお菓子売り場へと吸い込まれていくココを、卓は生温かく見守っている。
「どれも可愛くておいしそうねえ……。卓はどれにする?」
「トリック『オア』トリートとか言われてもなあ。何をもらったとて、することはするのに」
「…………。どっちにしてもいたずら前提なら、おいしいものを食べたほうがいいでしょ」
「確かに。それに、事後の糖分は大事だしな」
「へ?」
「ええと。激しい運動をするとさ、グリコーゲンがどんどん失われてくから、可及的速やかに回復する必要があるんだよ。あっ、グリコーゲンってなにかっていうと、主に筋肉、あとは肝臓に蓄えられてる糖の一種で……エネルギー源とざっくり考えてくれればいい。筋肉に含まれるのは筋グリコーゲンっていって肝臓のは肝グリコーゲン。とりあえずグリコーゲンって覚えてくれればいいや。で、そのグリコーゲンを素早く回復することはエネルギー源補充としては勿論なんだけど疲労回復って意味でもすごく大きい」
「へ、へえ……?」
「で、グリコーゲンの合成にはインスリンが必要です、と。インスリンっていうのは糖の代謝を調節するホルモンのひとつな。逆に言えば、そのインスリンの分泌は糖質で促されるんだけど糖質の中でも特にショ糖……砂糖が即効性高いわけ。摂るのは早ければ早いほどいいな。あ、あと筋肉っていうかひとの体って水分以外はタンパク質が結構な割合を占めてるんだけどその生合成の効率問題もあって。タンパク質だけ積極的にとるよりも砂糖とタンパク質を合わせて摂ったほうが効率いいんだ。たとえばこのかぼちゃ大福。合わせる飲み物は、紅茶もいいけど牛乳入れてミルクティーにしようぜ」
「えっ。……あの、わたし、そのとなりのかぼちゃクッキーとモンブランがいいんだけど……」
「いやいや。洋菓子は脂質が多いからここは和菓子一択だな。店員さんすみません、これふたつください。あっ羊羹……水羊羹もいいけどここは練羊羹にしとくか。食物繊維とかミネラルも豊富で小豆さまさまよ。いくつ食う?」
「え? じゃ、じゃあ、ひとつ……」
「すみません、これもふたつ追加で」
「あの、モンブラン……」
「羊羹に入ってる栗、すごいでかいぞよかったな」
「…………」
「ちなみにこれまでの理屈を突き詰めると分かるだろうけど、運動後の体は糖質を脂肪じゃなくて筋肉のほうにより積極的に持ってこうとしてるわけ。てことはどういうことかというと、甘いものを食べても糖質が余る心配をしなくていいってことなんだな。すなわち太りにくい」
「じゃあ、ちょっとくらい脂質? 脂肪? が多くてもいいじゃないの……」
「いやいや脂質は吸収が遅いから、糖質とタンパク質の吸収効率も……」
「……ああもう! めんどくさい! 店員さん! この段のケーキはじから2個ずつ、全部ください!」
「はあ? おい、おれの話聞いてたか?」
「聞いたうえで頼みましたけど、なにか!? あのねえ、わたしは、筋肉がどうとか効率がどうとかじゃなくて、ハロウィンていうワクワクイベントをかわいいお菓子に囲まれてただ楽しんでいたいの! トリックオアトリート!」
「いやいやじゃあせめてそんなクリームてんこ盛りのケーキじゃなくて……あっあの練り切りなんかどうよ。花とか鳥とか色とりどりで……」
「まだ言う!? そんなに洋菓子を目の敵にするならいっそのこと卓は、練り物……かまぼこにでも砂糖ふって食べてれば!?」
「お!? なんだ分かってるじゃん。かまぼこはフィッシュプロテインっていって肉より脂質が少なくて……」
「もういい!!」
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卓ちゃんは悪気なくこういうことをやりそう
お題箱 同棲カプのゆるい話
231022-01
たとえ意見が食い違ってもその都度話し合いで解決してきた卓とココだが、食パン何枚切りかを巡ってはうっかり決裂の危機に見舞われた。最終的にセルフカットで落ち着いた。
「8枚切とか、薄すぎて食った気がしないんだよ って、ちょっと前に言ってたじゃない」
「2枚食えばいっしょだから、別にいいって」
「でも、外がカリカリ中がもっちりなトーストが好きなんでしょ?」
「それはまあ……重ねていっぺんに焼けばいい感じになるだろ、たぶん」
「は?」
「えっ」
「なに言ってるの!? 外はいい感じに色づいて、中は両側から伝わった熱で蒸されて、かじりついた瞬間にいい香りがぶわっと漂ってきて、パンとバターが染み込み合うことで織りなされるハーモニーだけでなく、パンが持つ小麦本来の味も、1枚で同時に楽しめるのが4枚切の醍醐味じゃないの! それを小手先の策で再現しようだなんて! 4枚切に失礼でしょ!」
「……食リポ? あの、いちおう確認だけど、ココは8枚切が好きなんだよな? なんでおれよりツウっぽいこと言い出してんだ」
「卓が、4枚切が好きだっていうわりに、そのポテンシャルをちっとも理解してないからよっ」
「あ、ハイ。なんかごめん。でも、あれだ。4枚切は『広告の品』にならないって言ってなかったか?」
「それは確かにそう……8枚切と、あと6枚切は結構な頻度でお安くなるけど、4枚切はいつものお値段のままなのよね。なんか悔しいから、最近4枚切を買うときは商店街のパン屋さんに行ってる……そしてそのままずるずると8枚切もそこで……」
「あ! やっぱりそうだよな!? なんか最近パンがやたら美味くなった気がしてたんだ」
「そうなのよ……でも正直失敗したわ……。誰かが、おいしいパンはパンドラの箱みたいなものだって言ってたけど、本当にそうね。もうスーパーのパンには戻れない体になってしまった……」
「いや、でも、大企業の開発努力はやはり侮れないぜ? いつも変わらない、シンプルな味が逆にいいときもあるから困るんだよな……。サンドイッチは鉄板だけど、ほら、なんだっけ。こないだ作ってくれた、パンの上に卵とか肉とかチーズとかいっぱい乗っけて焼いたやつ。あれ、めちゃくちゃうまかったんだよなあ。ああいうのはやっぱりスーパーの8枚切が、味にしても量にしてもちょうどいい塩梅」
「そうなのよね……でも、フレンチトーストは4枚切の厚さがあってこそじゃない?」
「あっ」
「うん……」
「…………」
「…………」
「……だあっ!! もうやめやめ! 今後一切うちのパンは、1本? 1斤? どっちかよくわからんけどあの丸ごと売ってるヤツにしようぜ! その時その時で自分が食いたい分だけ切る! キリがないわこれ」
「そうね……切るときの、ガイドっていうの? ちょっと探してみるわね……」
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この家にバゲットだのベーグルだの参戦してきたらいよいよ訳が分からないことに
お題箱 いっしょにくらす
230914-01
4 今朝はゴミ出しだから早く起きなきゃってことは分かってる。分かってるんだ。だから悪いのは自分じゃなくて、ぬくぬくで心地好い布団と自分を抱きしめて離さないぽかぽかの卓なんだ。
授業の休講が重なり、今日は思いがけない休日となっていた。遅くまで、なんなら昼まで寝ていても誰にも怒られないはずなのに、腕の中のココは、なにやらもぞもぞと起き出したそうな気配を醸し出している。包み込む腕の力をさりげなく保持したまま、ベッドサイドの時計をチラ見すると、針が示すのは7時すこし前。昨夜ベッドに潜り込んだのは健康的な時間帯ではあったが、入眠した時間帯はむしろ明け方に近いので、卓としてはもうひと眠りもふた眠りもしたいところなのではあるが
「……なに。起きるの? トイレ?」
「じゃ、なくて……今日、燃やすごみの日だから……」
「あっ」
起こしちゃってごめんね と、すまなそうにするココを宥めながら、昨夜、冷蔵庫の扉に貼ってある『資源とごみの収集カレンダー』に従い、家中のごみをまとめたのを思い出した。あとは生ごみを入れて出すだけの状態にはりきって仕立てたというのに、すっかりその存在を忘れてしまっていた
「そうだった……うわ、夜のうちに出しとけばよかったな……」
「そういうのダメっておじさんが言ってたわよ。ちゃんとネットかけておいても、夜の間にけっこう荒らされちゃったりするんですって」
確かにルール違反ではあるのだが、即座に断罪してきた勢いに卓は怯む。意外とそういうところココは生真面目なのだ。確かにルール違反ではあるのだが(再確認)。ところで、唐突に出てきた『おじさん』とは
「そっか……。じゃあ、もうちょっとだけ二度寝して、それから行けばよくね? 朝メシ調達しがてらさ。このへん、収集車来るの遅いし……」
「でも。収集車がどうとかじゃなくって、朝8時までに出してねって、おじさんが」
「……いやちょっとごめんさっきから気になって話が入ってこないんだけど……なんなんだよ、そのおじさんって。親父……じゃないよな? 誰?」
ココは父のことを『おじさま』と呼んでいるし、その父が、ごみ収集日を把握しているかどうかの時点でかなり怪しい。また、実家の属する地域と、この家の属する地域は異なるので、細かいルールも異なる。……じゃあ、いったい何者なんだ、その謎おじさんは
「だから、町内会の」
「…………」
そんな怪訝な顔で見られるほどの質問をしたつもりはなかったのだが
そういえば。マンションのエントランスで顔を合わせる他の居住者・特に年配の男性に、ココが挨拶されたり、お菓子だの果物だのをもらったりすることが、最近増えたような気がする。授業のコマによるとはいえ、ほぼほぼ午前中に家を出て、だいたい夕方遅く~夜間に帰宅する卓よりも、ココのほうが、他の居住者と顔を合わせる機会は格段に多い。だからだろう、だとしても。ずいぶん親しげな雰囲気───変な勘繰りではなく、年配者に可愛がられる地域全体の孫ポジション的な意味で───だとは思っていたのだが(もっとも、卓は卓で、鉢合わせた年配の女性によく声を掛けられるのではあるが)……それが『おじさん』らしい。町内会の
よくよく聞きだせば、少し前から、町内会主催の草取りや清掃、ちょっとしたお祭りなどの地域活動にもたまに参加しているらしく、その後の慰労会等、茶飲み話をする機会も増えつつあるとのこと。……等々。魔界の王女様の口から飛び出てくるにしては、なかなかの違和感を放つワードの連発に、卓は開いた口がふさがらなくなってしまった
「町内会って……。馴染んできたなあ。おれよりこっちの生活にハマってきてないか」
「そうかしら」
「うん。いつの間にか、ごみの分別だってココのほうが詳しくなってるし」
「ええ……。そんなことないわよ」
謙遜しつつも、まんざらでもない顔でココは笑う。実際、牛乳パックやペットボトル、食品トレイなど、気がつくとごみと資源がきっちり分別され、切ったり洗ったり乾かしたり縛ったりと、いつでも送り出せる状態になっている。そこまでお膳立てしてもらったうえで、たまにやる気を出してごみをまとめるなどしてみても、いまこの瞬間のように、いざそのごみを出す頃合いには寝こけてしまっている卓からしたら、それはまったくもって頭が上がらない偉業なのだ
「おれの生活はココがいないと成り立ちませんな」
「それは言い過ぎ」
「いや、ホントだって」
と、卓はココもろともむっくりと起き上がり、昨晩適当に放り投げた下着を探し出す。ちなみにココの分はベッド脇にきちんとたたんで置いておいたので、探索する必要はなく、スムーズに身支度が進んでいく。さっと手櫛で髪をまとめた拍子に顕わになったうなじにちょっかいを出したいところだが、ここはココの、ひいてはおじさんの指示に、おとなしく従っておくべきだろう。おじさんの顔も名前もなにひとつ思い浮かばないが
「ついでにコンビニ寄って、メシと……デザートでも買お」
「いいわね! ちょうど新作のプリンが気になってたとこなのよ」
生活を整えてくれるうえに、機嫌まで良くなってくれるならこの上なし。明らかにテンションが上がったココの微笑みに釣られ、卓も鼻歌を歌いながら乱れた前髪を整えた
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近所で評判の美形カップルなんじゃないかと思います
お題箱 同棲カプのゆるい話
230624-02
卓が最近読み進めている本が机の上に置いてある。よく見ると自分が昔あげた栞が挟んであって、ココはどうしようもなく嬉しくなってしまった。
ふたりでひとつの部屋にいるからといって、常にふたりいっしょに何かをしているわけではない。ココがテレビを観ている横で卓は筋トレしていたり、ココが料理をしているあいだ卓は大学のレポートを進めていたり。もちろん、相手に怒られない程度にちょっかいを出してみたりして、軽くイチャついていただけのつもりが、なんとなくいい雰囲気となり、そのまま共同作業というかぶつかり稽古というか……に突入することも少なくはない。しかし基本的には互いに遠慮せず、互いのやりたいことをして気ままに過ごしている。まさに今もそうで、卓が夢中になって本を読んでいる隣で、ココは時短レシピやら流行りメイクやらの動画をジャンルも決めずとりとめなく眺めていた
卓が今読んでいるのは、つい先日まで放送されていたドラマの原作であるミステリー小説。そのドラマについて卓は当初、さほど興味なさげだったのが、なんだかんだ言って三話めくらいからココよりも前のめりになり、次回予告やコマーシャルを目に入れない徹底的なネタバレ排除態勢で臨んでいた(この点に関しては、予告からある程度の予備知識を入れ、心の準備をしておきたいタイプのココとしては若干迷惑だった)。そして最終回を無事見届けたその翌日に、復習と称して卓が意気揚々と買ってきたのがその本だ。先に読むことを一応勧められはしたが、大人の対応として丁重にお断りしたところ、すぐさまいそいそと読み始めたときにはココも思わず吹き出してしまった
緻密な伏線と複雑に絡み合う謎や思惑、そしてそれらが解かれていく過程。そもそも内容が面白いうえに、言葉に無駄がなく流れるような文体で書かれており、テンポ良く読み進められるので、重厚な物語も早々に中盤へと差し掛かっているらしい。その反面、中断するタイミングを見失い、ドラマ以上に時を忘れて没入してしまうので、トイレは毎回ぎりぎりまで我慢した駆け込み乗車となる。幸運にもまだ大事には至っていないものの、うっかり足でもひっかけたらいろんな意味で大事故になりそうだ
例のごとく卓が小走りで駆けていくのを、意味なく引き留めてみたいという誘惑をこらえながら見送り、ふとテーブルに目をやると、件の、ちょっとした武器にもなりそうな分厚い文庫本。そのちょうど中間くらいの頁位置から、細いリボンのような栞紐が垂れているのが見える。ココはその濃紺色になんとなく見覚えがあった。挟み込まれているページを指で押さえ、本からゆっくりそれを引き抜くと、やはりいそいそ小走りで戻ってきた卓がココのすぐ隣に腰を下ろした
「……なに」
「これって……。なんで? 本に紐ついてるのに……」
「そりゃついてるけど、折角ちゃんとした物があるんだから使うだろ」
「うそ……」
言葉どおり、多少の使用感があるものの、作った日からの経過年数を顧みればとても大切に扱われていたのであろうその栞は、かつてココが卓にあげたものだった
「いやならいかなきゃいい」そんなシンプルな言葉に導かれるように城を飛び出したあの日、三人でしばらく過ごした湖のほとりに咲き乱れていた薄紅色の花。それを押し花にしてあしらったもので、当時の卓少年への贈り物にしてはロマンチックが過ぎると思われる一方、冷静に考えれば、まるであの日のことを忘れるなとでも言わんばかりの圧が強めなチョイスでもあり、贈りつけておいて何なのだが今更ながら目眩がする。それでも、卓がそんな思い出ごと大切にしてくれているようで嬉しくなった
とはいえ、もともと卓はこの栞に限らず物持ちがいいし、そもそもあの日のことを覚えているのか実際のところは微妙というか卓に多くを望みすぎな気がするし、今更になって気づいたので口にしてすらいないこちらの込み入った事情まで感じ取っているとは思い難いのだが───
と、つらつら考えていたココの頬に、ふと何かが触れた。何かといってもそれが何なのかは今となっては見なくても分かってしまう
あのときとは違い、キスだけで一目散に逃げ去ったりせず、すぐそばに座ったまま卓はニヤリと笑った
「いい男が見つかって、よかったよな」
「!! ……覚えてるの、ね……」
「さあね。まあ、圧とは思ってない」
「……やだ、もう………」
「───ああっ!」
ゆっくりと卓にもたれかかろうとしたココの指が、押さえていた本のページを逃がしそうになったのを、卓は慌ててとどめる
「……え、いま本の心配?」
「いやいや、おれは一兎も二兎も同時に獲りに行くタイプ」
なんとなくいい感じになりつつあったムードは、もろくも一瞬で崩れ去った。が、ココの手元から栞を本へ丁寧に挟み込み、仕切り直しとばかりに顔を覗き込んでくる卓の顔を横目で見ていたら、なんだか笑いが堪えきれなくなり、ココは肩をすくめながらその唇に唇を重ねた
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そもそも本を大切にしそうなので栞を愛用していそう
お題箱 同棲カプのゆるい話
230624-01
掛布団のカバーをめちゃくちゃ手際良く取り付けることができるココ。動きもやたらと鮮やかなので、毎回卓は意味もなく見学している。
この世に生きるすべての人類は二種類に分かれる。布団カバーをつけられる者とつけられない者。そして卓はもれなく後者だ
カバーのファスナーを開き、まずは奥の角の紐を探し出す───その時点で既に自分自身の位置まで見失っている。四苦八苦しながら一か所を結び付け、次の角の紐同士がまるでそうなるのが運命であったかのようにすんなりと噛み合ったかと思えば、八割がた長辺と短辺が食い違ったまま重なっている。長辺の真ん中にある予備紐も思わぬ伏兵だったりする
イライラしながら結んでは直す その繰り返しで、ようやくできあがったころには、洗濯し清潔なものを用意したはずのカバーは心なしか交換前のものよりもしわくちゃにくたびれていて、「徒労感」という単語の辞書における説明文そのままの心境に毎回陥ることになるのだ。なんたる苦行か
「おばさまに教えていただいたのよ? 息子がなんでできないの」
「それ言ったらおやじも絶対できねえよ」
「……。それはなんとなくわかるけど。なんか意外ね、卓はいろいろ器用なのに」
わざわざ「卓は」と付けるあたり、誰が器用で誰がそうではないのかココも分かってきたらしい
喋りながらも手際よくセッティングしていくココは、いわゆる「つけられる者」サイドだ。魔界に住んでいたころは、立場上、メイドやら何やらとにかくお付きの者がその手の作業を一手に引き受けていた筈で、自分で執り行う機会など皆無だったのだから、やはり天性のセンスによるのだろう
ひとつ屋根の下でともに住み始めてから数か月、最初の数回ほどはココも卓の格闘を面白がって見ていたのだが、いつからか、本当に笑えないレベルなのだと悟ったようで、家事は基本的に分担としているものの、カバー交換依頼のお声だけは一切かからなくなった
「いちど裏返してからやればいいのよ。で、紐をぜんぶ結び終わったらひっくり返して……」
「そんなチート技でできても、なんかムカつくだろ。試合に勝って勝負に負けた的な」
「…………」
『チート技』を使えば当然できるかのような口上になってしまったことは、正直反省した
そしてそんなひと手間を加えずとも、ココの手にかかれば、布団はおとなしく美しくあるべきところに納まっていく。同じ布団のはずなのに
また、そのときのココの所作自体も無駄に美しいので、交換作業にとりかかるタイミングで卓もその付近に集合し、横から意味なく眺めているのがなんとなくの定番となりつつある
「まあ、物事には向き不向きがあるからな」
「そんなこと言ってたら、ずっとできないままかもしれないわよ?」
カバーのファスナーを閉じ、ココは布団をばさばさと振りながら細かいポジションを整える。作業完了。卓はその美しい布団を軽くたたんで床に除け、空いたココの膝を枕にごろりと転がった
「一生やってもらうからいい」
「一生って……」
文脈から何かを感じ取ったのか、急にココの心拍数が跳ね上がるのが膝枕から伝わってきた。卓の中では既定路線とはいえ、それをこんな粗雑に伝えたと思われてしまうのは心外なので、そ知らぬふりを決め込むことにした
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長辺の両端に切り込みがあるタイプを考え付いた方は天才ですね
お題箱 同棲カプのゆるい話
230613-02
深夜におもむろに卓が作り始めたのはカップ焼きそば。「夜中になんて物を」と呆れるココだが三分後、ソースのいい匂いにあっけなく屈するのであった。
そのとき世間は4年に1度の某球技国際大会により興奮の坩堝と化していた。ご多分に漏れず、この部屋も
開幕時点では、青い人たちを応援すればいいのね 程度の認識だったココも、となりに座り、尋ねたことも尋ねていないことも随時プロ並みの解説をしてくる卓とともに毎試合を観戦していれば、分からないなりにも楽しくなってくる。そして今日はベスト8入りがかかった大事な試合。大興奮で応援し、選手同様に……と言ったら怒られそうだが、試合終了の笛の音のもとやりきった感に打ち震えていた
そしてココ以上に白熱していた卓はといえば。燃え尽きた灰のままおとなしく就寝するのかと思いきや、叫んでたら腹減ったわ とぼやきながら収納庫からおもむろにカップ焼きそばを取り出した
湯を沸かす直前、ご丁寧に卓は何人分沸かすべきか尋ねてきたのだが、こんな時間だからとココは丁重にお断りし、若干……正確にはドン引きしながら、いそいそと湯を注ぐ卓の姿を眺めていた、筈だったのだが……。こんな時間だからこその背徳感と、湯切りした麺に混ぜ込まれながら熱々の湯気とともに漂ってくるソースの甘辛かつスパイシーな匂いと。その誘惑は思った以上にすさまじかった。結局、卓のものより小ぶりのサイズとはいえ、後追いでカップ焼きそばを作り始めてしまい、三分待つ間に卓が差し出してくるお裾分けともどもおいしく平らげてしまい───今に至る
リビングの時計が指していたのは25時過ぎ。洗面台の前にふたり並んで歯磨きをしながら、視界の端をちらりとかすった体組成計を、ココは見なかったことにした。ほら、いまは食べたばかりだから。明朝……いや、夕方以降に測ることにしよう……
「あの……なんかわたし太ってきてない?」
「そんなことないだろ」
卓はうがいを終え、口元をタオルで拭う。そりゃ卓は『そんなことない』かもしれない。もともとスリムな上になにかと忙しく動き回っているし、最近は小回り重視で自転車通学を初めてみたりと、そもそものカロリー消費量が違うのだ。それに引き換えココの場合は。それなりのスタイルだと自負していたが、いたる箇所を締め上げるドレスの着用機会が激減し、ふたりで食べればなんでも美味しく感じられるせいで食事量が増えたうえに、つい先刻のような、変な時間に食べる楽しさまで覚えつつある昨今、危機的状況は実はすぐそばにまで来ているのかもしれない
「もうちょっと肉つけてもいいくらいじゃねえの」
「いりません! あっ、寝る前にちょっと運動しようかしら……卓もどう?」
「……。そりゃ望むところだけど……なかなか斬新な誘い方だな」
「え?」
その日いちばんの笑顔になった卓に担ぎ上げられたココは、そのまま有無を言わさず寝室へと連行された。それが功を奏してか、翌昼の体組成計はめでたくココのベストラインを示していた
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卓ちゃんは夜も得点王
お題箱 同棲カプのゆるい話
230613-01
4月だけどもう冷房を入れたくなり始めている卓。さすがにまだ早いか……と思いながらココをチラ見したら「さすがにまだ早い」と心を読まれて釘を刺された。
「他で節約すればいいじゃねえか……。なんなら家電のコード片っ端から引っこ抜くか? テレビとか見ないしさ」
「まあ、確かに見ないけど」
「あっ! 風呂一緒に入れば節約になるんじゃね?」
「は?」
「そうそう、照明切って蝋燭でもつければ雰囲気バッチリだろうし、一石二鳥だよな?」
「なんか……よからぬ思惑を感じるんだけど」
「いやいや、節約最優先ですよ。財布にやさしく地球にやさしく」
「…………」
「そのまま風呂ででもいいけど、ベッド行ったほうがいいだろ?」
「改めて訊くけど、話の趣旨変わってない?」
「いやおなじ節約するでも手を変え品を変えてかないと。マンネリ化はちょっとな……。まあおれはいつでもおいしくいただくけど」
「『いただく』って言っちゃってるじゃないの! もう!」
「あー、まあ真っ昼間だしな……まだちょっと早いか」
「その『早い』じゃないのよ」
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扇風機に向かって「ワレワレハマカイジンダ~」とかやっていてほしい
お題箱 すきな人にあいされるガチャ
230520-04[P:230423]
お菓子を作るココ。お菓子を作ったココがまとう甘い匂いが好きな卓。お菓子よりココを食べちゃいたい。
家を出る前に料理のいろはを教わり、基本程度の品々をそれなりに作れると自負しているものの、菓子作りとなると話は別だ。ある意味化学だといわれているだけあって、きっちりした計量と定められた工程の厳守を強いられるうえに、できあがるまで味の想像がつかない というのがどうも性に合わない。正確には、一度やってみたらついうっかり道を踏み外し未知なる物体との遭遇をやらかしてしまったので、それ以来手を出していない
だからというわけではないが、この家の菓子担当はココに任せることにした。そうでなくてもココの作る菓子はどれもうまい。特にパウンドケーキはよくリクエストする。しっとりどっしりした生地なのに底なしに食えるし、そう言って褒めたときの、基本中の基本よと前置きしながらのうれしそうな顔は百点満点だし、バターをすり混ぜるのもメレンゲを角立てるのもなかなかの重労働なのだから電動ミキサーを買えばいいのに、地道に泡立て器で攪拌しているときの、親の仇とエンカウントしたような顔も嫌いじゃない
そしてオーブンから部屋中に漂うバターの甘い幸せな匂いをまとったココは最高。我慢できずにいつもつまみ食いをしてしまうので、おれは焼きあがったケーキの仕上げ工程だけはうまくなった。ケーキは粗熱を取りラップとアルミホイルでぴっちり包んで寝かせて味が馴染むのを待つけど、それを作ったココのほうは加熱してひんむいて寝かせるけど寝かせないで即食い尽くすってのはなかなかの業の深さというかなんというか。というわけで今日のおやつもパウンドケーキをリクエストすることにした
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食べちゃいたいというか食べる前提で書いてますが……書けば書くほど卓ちゃんがおかしなひとになっていきます。お菓子だけに(すみません)
お題箱 すきな人にあいされるガチャ
230520-03[P:230420]
天ぷらや唐揚げは油が跳ねると危ないので全部卓がやってくれる。
卓が、料理のプロも裸足で逃げ出す母の手ほどきを受けた結果、この家での炊事担当は、食事のうち揚げ物は卓、それ以外のおかずはそのとき手が空いているほうがなんとなく(8割ココ・2割が卓)、そしておやつはココが作るという分担制となっていた
卓の作る唐揚げはとてもおいしい。粉をあまり丁寧につけているわけではないのがかえって良いのか衣はザクザク、逆に入念な下処理をし漬け込んだ下味の、特にたっぷりのにんにくとしょうがが効いた肉は柔らかく、あふれんばかりの肉汁が口内に染み出てくるのだ。想像するだけでココはますますおなかが空いてくる
おいしいものが食べられるのに越したことはないのだから、下手に手も口も出さずに任せておけばよいのだが、後学のためにもその手腕を背後から覗いていると、いつもだいたい怒られる。そう、こんなふうに
「顔やら腕やらに油飛んだらどうすんだ。ちょろちょろしないであっちに座ってろ」
鍋で油が爆ぜるいい音がする。一度めより高温の油の勢いに任せて跳ね踊る肉を卓はこまめにひっくり返した
「だって簡単に治せるでしょ」
「治せるってことと、はなからそんな危険を冒さないってのは別の話だろ」
「それはそうだけど」
「だいたい、おまえに痕をつけるのはおれだけで十分だし?」
「うわ、ダサっ」
そんなセンスのない台詞しか言えないひとにはおあずけです。ココは取り皿とお茶、キンキンに冷えた缶ビールを手にリビングへ戻り、山盛りの唐揚げを拵えた本日の料理人を待つことにした
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洗い物は卓ちゃん専任
お題箱 すきな人にあいされるガチャ
230520-02[P:230417]
ココが風邪を引いている期間はわかりやすく卓の爪が伸びている。
念願のふたり暮らしにはいまだ至らず、ココが人間界と魔界を行ったり来たりする日々は相変わらず続いていた
魔界の王家主導で執り行われる行事への出番は、弟が後継者として立派に成長していくにつれてありがたくも減ってきているものの、それでもこまごまとしたものが重なることがある。結果として久しぶりの来訪となったココが部屋に着くと、卓はちょうど爪切りをしているところだった
「よう、おかえり」
「ただいま。……どうしたの?」
「どうしたのって……見てのとおり、爪切ってる」
「それは分かるんだけど……」
ココが尋ねたのは、爪を切る行為自体についてではなく、その後の処理のことだった
爪になにか恨みでもあるのかと思わされるほど、いわゆる深爪寸前・ぎりぎりに切り揃え、丁寧に鑢をかけて角を取る。滑らかに整えた爪の先端からその周囲には特に丹念にハンドクリームを塗り、刷り込むようにマッサージなどし始めたから
「えっと……前からそんなに丁寧にお手入れとかしてたっけ……? あっ、お料理し始めたからかしら、手が荒れちゃった?」
「まあ、それもあるけど」
「へえ……。わたしもきちんとケアしないとね。なんか反省しちゃったわ」
「…………」
その一連の流れを眺めていたらなんとなく触発され、見よう見まねで一緒にマッサージをしてみたりする。血流がよくなったからなのか、心なしか肌が綺麗になったような気がしてきた
すっと伸びた長い指に、いつも短く、清潔に切り揃えた爪。卓はもともと綺麗な手をしていると思ってはいたけれど、こんな丹念なケアの賜物だったとは。その手のことには無頓着に見えて、意外と気にしていたりするのだろうか。ということは、逆にこちらのケアについて思うところがあったりして……これからはもっと真面目にがんばろう……
などと暢気に考えていたのだが。丹念なケアの本当の理由は、夜になって分かった
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改変自由とのことなので、風邪ではなく魔界に行って席を外している期間を想定して書きました
お題箱 すきな人にあいされるガチャ
230520-01[P:230417]
ココが好きな味のガムしか噛まない卓。
「あ、これ切れそうだったんだ」
カートを押しながら菓子売り場を並んで歩いていた卓が、ボトルタイプのガムを篭に放り込んだ。多種多様な味のものがずらりと並ぶ中、いつも噛んでいるものと同じものを選ぶあたり、よほどその味が気に入っているのだろうと思たのだが
「だっておまえこれ好きだろ?」
「え? ……ああ、まあ……」
ちなみにココはガムをめったに噛まない。なぜなら口の中になにかがずっと入っている状態があまり好きではないから。その味のガムが好きなんじゃなくて、卓のキスがいつもそのガムの味だから好きなだけで、なんだったら口の中になにかがずっと入っている状態も卓だから許せる、むしろ好きなんだけどな とは言わないでおいた(※考える声が大きいのですぐバレます)
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卓ちゃんはライムミントの緑のやつが好きそう