イチャイチャしてるだけ その2 01

真壁くん「江藤の好きな所?…好きな所……所…?…………存在?」



すこし前にされた、『いつから』という問いに対しては、力技で流して事なきを得たのだが、今度は『所』ときた。その、何かというとはっきりさせたがるのは一体なんなんだ





答える以上、一応、真面目に考えてはみた

まずは外見。……好きな所はと問われ、いの一番に外見のどこかを答えたら、それはそれで問題があると思うのだがともかく……。こちらをまっすぐ見つめる曇りのない目は、うっかりすると吸い込まれそうなほど見入ってしまうし、心持ち薄めの唇は、楽しそうに喋るのをいつまでも眺めていたくもあり、隙あらば喰いついてやりたくもあり。つややかな長い髪は風にさらりと揺れ、いつもいい香りで鼻先をくすぐってくる。手指はいつもしっとりやわらかくて、こないだふざけて頭をなでなでされたとき、純粋に気持ち良すぎて、もっとしてくれと懇願してしまいそうになったのをやっとの思いで堪えた。危なかった。気持ちいいといえば手ばかりでなく身体すべてがなんていうかある意味犯罪的で、想像しただけでいろいろやばいし、触れたら最後、即メーターが振り切れる。……問題があるとかそういうレベルではなく、そもそもこんなことを素面で言えるわけがない……

じゃあ内面。物事を明るく前向きにとらえるところは、いちいち裏の裏まで疑ってかかりたくなる自分とはまったく逆で、純然たる長所、うらやましいとさえ思う。誰に対しても気配り目配り親切丁寧なのもいい。彼女のまわりはいつも花が咲いているようで、ほわほわとあたたかい。正直、そこまでしてやらんでも と思わなくもないが、それはそれでこちらが処理する……例えばそんなやさしさを自分だけのものと勘違いするような輩が発生したとしても、うまいこと存在を抹消……じゃなかった、誤解を解いておくので、好きにしたらいい。何事にも一生懸命、勉強以外はほぼほぼ完璧、たまにおっちょこちょいなのが玉に傷といえなくもないが、それはそれで以下同文。というか、たまにはフォローくらいさせてくれ
また、これは厳密には『好きな所』ではないのかもしれないが、彼女といると『気づき』が多い。おかずの食材で季節を感じるなどちょっとしたことから、自分自身のことについても。そのへんの同世代よりも自分は達観できているつもりでいたけれど、意外と足元は心許なかった。我ながら激しい運命の波とやらにぐるぐる巻きこまれている自覚はあるが、そのとき、いちばん大切なもの・手放してはいけないものを、とどのつまりは自分の心を見極められずにいた。たったひとりの存在がとなりにいるということが、こんなにも心の芯となり支えとなるのだということに、今更ながら驚いている

───と。結局のところ、ここ! というピンポイントな点があるわけではない。いや、あるにはあるのだが、序列的なものはなく、それら無数の点がすべて繋がった彼女という輪郭というか結局のところ全部だ。短所と呼ばれそうなところも含めて。自分の想いが、『好き』という言葉で示すことができないような、高尚なものだなんて言うつもりはない。彼女という存在自体が『好き』という言葉の枠にとどまらないくらい大きい───そういうことなんだろうと思う。だから『存在』と返したのだが、その表情から察するに、すこし……だいぶ意に染まぬ回答だったらしい

「またそうやって煙に巻こうとしてる……」
「煙に巻くって……なんか人聞き悪いな」
「だってそうだもの。ざっくりしすぎっていうか……もうちょっと考えてくれても」
「考えたからこその答えだ。だいたい『所』ってなんだ。それって、もし他に同じ要素を備えてるヤツがいたら、そいつで替えが利いちまうってことだろ」
「そんな極端な……」
「だいたいなんでいまそんなこと聞くんだ」
「えっ……」

そもそも、唐突と言えば唐突な問いかけの動機は何なのか
なにかひとつ確かなことがないと安心できないということなのか、少し前ならともかくいま、彼女を不安にさせてしまっているなにかがあるのか。それとも自分とは関係ないところでなにか彼女の自信を喪失させるような事象が発生して、彼女のいいところを挙げさせることで、折れた心を回復させようとしているのか。ずっと気にかかっていたものの、となりに座る横顔を眺めてみても、今日一日の行動を反芻してみても、なんのヒントも見えてこなかった。ので、尋ねてみるしかない。すると彼女は一瞬答えにつまり、頬を赤らめた

「たまには、わたしのことで頭の中いっぱいになってくれたらいいなって……」
「…………」

たまには も何も、言うか言わないかの違いで、言われるまでもなくいつも頭の中は誰かのことでいっぱいなのだが……まあ、言わないのが一番の問題という自覚はあるので強く申し開きもできないのだが……ならば、それはそれとして

「じゃあおまえはどうなんだよ。その……好きな所、とやら」
「!?」

彼女は心底意外そうな顔でこちらを見た。そりゃそうだ、こんな柄にもない問いかけは、後にも先にもこの場限りだろう。改めて何を想起しているのか、彼女はしばし考え込むそぶりを見せたあと、おもむろに口を開く

「…………そ、存在?」
「おい、もうちょっと考えろ」
「わたしはいつも考えてるから、いいのっ」

───だから人聞き悪いんだって。つるりと無防備な額をちょいとつつくと、彼女は首をすくめて笑った