目の前の池を眺める、今は自分と同じ人間となってしまった少女の後ろ姿を
彼はしばらく見据えていた
すこし痩せたかもしれない。それ以外、なんら変わったところはなく
穏やかな風に流れる髪も、“魔界人”であったころのそれとほぼ等しい
それなのに、と口を突いて出そうになるのをようやくこらえる
彼女が魔界人であろうが人間であろうが
陽は昇り、風は吹く
この世界にとってそうであるように
彼女自身にとっても、それはさしたる問題ではないのだろう
その胸のうちにあるのはただひとつ
間接的にだとはいえ、彼女にその決断を下すことを促した少年のことのみなのだから
何度傷ついても涙を流しても、少年を追う
自分には到底持ち得ないそのひたむきさに、崇高さを感じさせられると同時に、歯噛みする
たとえ結果が同じだったとしても、自分ならもっと巧く彼女を導くことができるに違いないのに と
『……………』
生前、ここまで何かに執着したことはなかった筈なのに
我ながら未練がましいものだと彼は苦笑した
あのとき命を落としたのが、自分ではなくあの少年だったなら
幾度となく繰り返したこの問いは、そのたびに胸の奥に封じ込めた
なぜなら、その答えも本当は判っているからだ
──────もしそうだったとしたなら彼女はきっとここには居ない
今、迷いもなく彼を追いかけることを選んだ彼女なのだから
きっとその瞬間も迷うことなく少年を追いかけたのだろう
まんまと生き残った自分だけを置いて
彼と彼女の間を通る風が過ぎ去るのを待って彼は彼女に呼びかける
『…………ランゼ』
「!! カルロ様──────」
自分の声に振り返り、無防備な表情で飛びついてくる
そんな姿も、ありえないことだった
心から愛おしいと思う、その根本的な部分は変わらないけれど
彼女が求めるのは、頼りない肩を抱きとめる“誰か”の腕ではなく
何度傷ついても涙を流しても、なお焦がれるただひとりの少年の腕だということを
認めてしまった今、そのベクトルは大きく変わり
自分の心情すらまともに表現できない不器用な少年とは、真逆の意味で不器用な彼女の
頬に触れる透けた指先は、何よりも正直に、彼の心を映し出す