ピン・ポ───ン
「は──────いっっ」
中学生の下校時刻を回ってしばらくしたころ、おうちのチャイムが鳴る
そのころまでに晩ごはんの下ごしらえを終えておくのが、ここ最近のわたしの日課
手を拭きながらドアを開けると、そこには
「いらっしゃい♪」
「……相変わらず、ドア開けるのトロいわねっ」
仏頂面の神谷さんが立っていて
いつも日替わりで持ってきてくれるデザートを、にゅっと差し出す
晩ごはん前でも、甘いものは別腹、女ふたりそろえばへっちゃらで
他愛のない話をしながら、ふたりでぱくつく
今日は、フルーツいっぱいのタルトだから、カップに注いだのは熱いダージリン
いろいろ出してみた結果、神谷さんの好きな茶葉はこれだってわかった
飲む前にカップを掲げて香りを楽しむその表情が、とても幸せそうだったから
(じっと見てたら殴られたけど)
おなじひとをすきだったわたしたち
すきなものも似てる
『これ! すっごい泣いちゃったのっっ』
『ふ──────ん』
あれはいつだったかしら。なんの気なしに映画の話になったときのこと
先日観て、わたしはティッシュひと箱を使い切った映画だったんだけど
神谷さんはそのビデオを冷静にじろっと見て、気のないような返事をしただけだった
『ど……どう? 神谷さんもきっと気に入ると思うんだけど……』
『は? わたしとあんたじゃ趣味が違うでしょ。一緒にしないでよ
だいたい、この年で映画観てわんわん泣くなんて、あんた、みっともないと思わないの?』
『え〜〜〜……。そう言わず、だまされたと思って観てみて、ね?』
『…………しょうがないわね』
そういって渋々借りていったビデオを返してくれたとき
目尻にちょっぴり赤みが残っていたことに、わたし気づいちゃった
『悪くはなかったわね』
それは神谷さん流・最高の誉め言葉なんだってことにも
そんなクールな神谷さんなのに
最近、うちに来る回数がぐっと増えて
なんだかいつも、どことなくそわそわと落ち着かない感じ
たまに何か言いかけて、わたしがそちらを見た瞬間に『やっぱりいい』で終わる
おなじひとをすきだったわたしたち
だからなんとなく、わかる
神谷さんがいま、誰かに恋をしていること
そういえば、最近の神谷さん、とってもキレイ
「……なに、じろじろ見てんのよ」
「え? べ───っつに───♪」
「……ふんっ」
視線に気づいた神谷さんは、ぐいっと紅茶のカップを傾ける
そんないい飲みっぷりは、照れ隠しのひとつなのよね
わたしに相談してみて なんて、おこがましいことはけして言えないけれど
もしかしたら、まぐれにいいアイディアが出てくるかもしれないし
何より、もじもじ悩んでいるだけなんて、神谷さんらしくないよ
いつかきっと、言いだしてくれるよね
そのときまでわたしは、ずっと待ってるから