いつもにぎやかな学園内も、この時間帯だけはすうっと静かになる
おやつのあとのお昼寝の時間
職員たちもほっとひと息つきつつ、日替わりで、部屋で眠る子供たちの布団を直して回る
今日は私がその当番の日だった

最後に回るのは、皆それぞれに複雑な事情を抱えた子供たちのうちでも
ある意味いちばん難しいと思われる少年の部屋
素行に問題があるわけではない
むしろ、問題があってくれたほうが、私たちももっとやりやすいかもしれない







静かな寝息を立て、行儀よく眠るこの少年の名前は、私がつけた
なぜなら出会ったときの彼は、それ以前の記憶をすべて失っていたから
もっと男の子らしい名前がいい───そう返されるかもしれないと懸念したその響きを
彼はさして気に留める風でもなく受け入れた
彼はそれ以降も、そういう意味での“少年らしさ”を見せることはない
もともと大人びた性格だったのか、それとも
記憶を失うほどの出来事を経て、記憶とともに抜け落ちてしまったのか
そこまでは判らない



記憶を失うということは、どういうことなのだろうと思う



失った記憶のことを、私たちに尋ねることはないし
私たちも、そのことに簡単に触れることもできないままだけれど
彼は彼なりに思うところがあるのだろう
ときに遠くを見つめているその表情は、とても不安定なものに見えた
なにかを求めているような
それでいて、すべてを諦めているかのような



彼の心の隙間を埋めるのが、内に秘めるのが当たり前になってしまった彼自身の感情ではなく
誰かとの幸せな時間でありますように
心からそう願う
確かなものを取り戻してあげることはできなくとも
確かなものを与えてあげることはできる筈なのだから







細く開けた窓から吹き込む風が、少年の前髪を優しく揺らす
私は息を殺したまま、その部屋のドアをそっと閉じた