色々100のお題 Type3 04:君の、となり
「―――やけた、の」
「…………」
何がだ。餅か。―――と、言いかけて
肝心なことは必要以上に噤むくせに、諧謔的なことは思いのほかつるっと滑り落ちる口を自制しておいてよかった と俊は、ふたりぶんの紅茶を淹れながら蘭世が語る「今日のできごと」を聞きながら、自らの采配についてひそかに舌を巻いた
ことの経緯はこうだ
今日の昼間、神谷家を訪問。その際、話題は時節柄卒業式の話、および卒業アルバムの話へとつながり、その延長で、大いなる財力と親馬鹿パワーによって作り込まれた神谷家のアルバムを、ありがたくもご披露いただいた
季節折々のイベントに限らず、日々の何気ない日常の瞬間を切り取った山ほどの写真の真ん中に収まっていたのは、満面の笑みでポーズを決める幼いころの曜子。―――ばかりではなく、その傍らに、そっぽを向いたり、あるいは見切れたりもしているものの、同じく幼いころの自分の姿が佇んでいる写真がそこそこの枚数を占めていたのだという
そして、冒頭の蘭世の台詞に至るというわけである
すなわち、幼い自分のとなりにいるのが、彼女自身ではなく曜子であったということに「焼けた」ではなく「妬けた」
「餅」は当たらずも遠からず、だ。食べられるかどうかの違いは大きいが
「妬けたっていっても、ちょっとだけよ、ちょっとね。……神谷さんの登場、多すぎだし」
「…………」
そりゃ、「神谷家の」アルバムなのだから当然だろう
むしろ主役はそっちで、自分はあくまでオマケだ。絶対数の問題はあれど
「と、いうか……今となっては、どうしようもないことなんだけどねえ……。分かってるのよ? でも、もっと早くから学校に通えるよう、おとうさんにお願いしとくんだったなあ、って」
大体が。自分ではなく曜子でもなく他でもない彼女自身が、当時はそこにいなかった存在、また、ごく一瞬強引な方法で割り込んできた瞬間があるものの、基本的にはそこにいてはいけない存在であったのだから、仕方のない話ではないか
―――などと言うつもりもないし、言う必要もない
なにより、彼女自身ちゃんとそれを分かっているからだ。遠目がちで紅茶を飲みながらごちる程度で済む、ないものねだりだということも
俊としても、論点はそこではない。写真という切り取られた瞬間においてとはいえ、幼少期の自分が好き好んでそこにいたと思われるのは腑に落ちないだけで
いま在り続けたいと思う場所はどこなのか、主張しておくべきはその一点のみだ。そしてそれを主張すること自体、蘭世にとってもまた
リビングの、日当たりのよい窓際に置いたふたり掛けのソファは、シンプルなデザインながら丁寧な拵えが気に入り、ふたりで選んだ
蘭世の腰掛けるすぐとなりが、俊のくつろぎの指定席
俊は自ら選んだ、そして誰にも譲れないその場所へ、少しだけ乱暴に腰掛けた
心地よいのは、決して、ふかふかのクッションの功績だけではなく―――