色々100のお題 Type3 05:一緒に

「うそ…………」

布団を這い出てカーテンの隙間を覗きこみながらようやくこう呟いた彼女が指差す窓の外を見やると、そこにはまさかの光景が広がっていた
季節外れの雪が景色を包み込む銀世界。しかも、未だ降り落ちる雪は、真冬のそれに劣らずぽってりと重い
季節の変わり目とはいえ、夜中やけに冷え込むなと思ってはいたが―――もっとも、遅くまで起きていたとはいえ、窓の外を見る余裕などなかったのだが―――、4月の中旬にも差しかかろうとしているというのに。まさに「春の珍事」だ

慌ててつけられたテレビの画面からは、やけにはしゃいだ若者たちの映像と、それとは対照的に、淡々と気象情報や交通網の一部麻痺を伝えるアナウンサーの声・テロップが流れ、それを凝視する彼女は、みるみるうち、いっそ面白いほどに萎れていった
その理由はなんとなく、―――いや、重々承知しているのだが

「………。とりあえず、寒いし……戻れば」
「う~~~~……」

毛布でぐるぐる巻きとはいえ、そこそこ冷えた畳に素足は冷える
猫を招き入れるように布団をまくり上げると、彼女は元いた俊の腕の中におさまった
布団の中に籠っていた俊の肌には、彼女の肌の冷たさが心地良い
――――それは、そうと

「この雪じゃ……下手に出かけたりしたら、ハマるな」
「…………!」

寝癖もつかずつるりと流れる髪を撫でながら、何でもないことのように言ったつもりだった
今日という日に外出をしないという結論を、言外に匂わせる程度にとどめたのは、彼女が、自分に対してあれこれ口にしないまでも、いろいろ画策してくれていたことを知っているから。それが嬉しいから
けれどその計画は、他でもない自分が留めなければいけないから

「だ、大丈夫よ! だっていざとなったらほら、テレポートとか……」
「………………」
「…………。せっかくのお誕生日、なのに……」

彼女は一瞬傷ついたような顔をして、俯いた
自分が傷つけるのは嫌だ。自分の知らないところで勝手に傷つけられるのも困る(もっともそんな相手は容赦なく叩きのめすのだが)
けれど、いま目の前でしゅんとする彼女を眺めているのは、なんだか楽しいとくるのだから勝手なものだ
特別なことをしてもしなくても。今日という日に一緒にいる、ただそれだけで幸せだというのに。―――それに

「別に……誕生日は今年だけじゃねえだろ」
「………………」

なんら申し合わせがなくても、来年も再来年もその次の年も。永遠を信じさせてくれる存在の、なんと愛おしいことか

「ケーキ……焼いてくれてたろ」
「……昨日焼いて……。夕方には味がなじんで、食べごろ……」
「プレゼントも、用意してくれてたんだろ」
「あ、バレちゃってた……。でもね、元々お花見に行く予定だったじゃない? その帰り道に、何かおそろいのもの買いたいなって思ってたの」

おそろいの何かを持つ。自分からはけっして言い出すことはできないけれど、そんな恋人同士のベタな儀式は正直やぶさかでもない
無言でおでかけを否定しておいたものの、きっと今日あたりは、桜と雪が相見える貴重な光景にお目にかかれるに違いない
それはそれで捨てがたい。いかんともしがたい。けれど今日は、特別な日だからこそ

「ずっと、このまま…………こうしてるほうが、いい」
「―――――あ」

すこし強めに引き寄せた彼女の肩は、俊のそれと同じ温度を取り戻していた