色々100のお題 Type3 08:お願い
「そういえば、新庄さんはなにをお願いしたの?」
年末から年始にかけて彬水は、実家に顔出しするのが定例となっている
今年からはその行程に、こちらに戻った足で待ち合わせ、近所の神社で初詣をするメニューが加わった
暦の並びの良好さに従い、ふたりが顔を合わせなかったのは都合5日間。その分を取り戻すかの如くこっくりしつこく攻め入ったつもりなのだが、その余韻もどこへやら
しかるべき局面で燃え尽きたということなのか、そもそも互いに色めく素養がないということなのか、ベッドの上・腕の中でおとなしく髪を撫でられていた相手の台詞はそんな、ごく普通の会話の一片だった
まあ、“らしくて”いい。放熱後のけだるさを残した唇から、可愛らしい言葉が零れ落ちてきたりなんかしたら、今日に関してはいつも以上に歯止めが利くか分からない。そう納得する。納得しつつも、なんだかずれている感は拭いきれない
気になるなら、遅い昼食で立ち寄ったパスタ屋ででも尋ねてくれば良いものを、なぜにこのタイミング?
「や、あのう……カルボナーラがおいしすぎて……訊くの忘れちゃってた」
「…………」
「あっ、久しぶりに一緒に食べたせいかな? なーんて」
「バカ」
気になる度合いはパスタ以下かい! そうツッコミかけた気配を察してなのかどうなのか
「久しぶりに一緒に」そんなフレーズを織り込んでくるあたり、心得たものというところか―――否、彼女の場合まったくの「素」だろう
とはいえ、まあ。こんな返答しかできない時点で、ツッコミを入れる資格もないのだが
「願い事、ねえ……。特に、何も」
「ええ~~~?」
案の定。愛良は素っ頓狂な声を上げながら、批判めいた目でこちらを凝視する
「そんな、驚くようなことかね」
「驚くよ! だって、カノジョと一緒に初詣に行ったりしたら普通はこうでしょ? 『ずっと一緒にいられますように』って……!」
あたしはそうお願いしたのに……と、胸の前で両手を組み合わせながらひとりごちる。いやそれ宗教違いますから
「そんなこと願う必要ない。つうかそんなこと願うくらいなら、他のこと祈っとけ」
「なに、それっ」
そもそも初詣を提案したのは自分だ。だから愛良に対してこんなことは絶対言わないのだが
買い物がてらちょっと遠出して……と、そんな普通のデートもよいけれど、年の初めにしか味わえない、一種独特の浮かれた雰囲気に乗ってみるのも悪くない。そんな動機で選定した結果でしかないというのも大概失礼だし、年に一度、思い出したかのように出向くだけのくせに、こちらの勝手な願い事だけ投げつけるというのもムシのよすぎる話だろう
なので、愛良の問いに対する解・すなわち神様への願い事は「特になし」これに尽きる
ただし、願い事がないわけではない。願う相手が違うだけだ。願い事も、願う相手も。ありがたいことに只今現在しっぽりと腕の中
にも関わらず。「どうせそう思ってるのはあたしだけなのよね」―――そんな口をきいたりするからこっちは、甘い言葉を紡ぐのではなく、ふくれた頬に唇を押し当てたくなるのだ
「!! またそうやってちゅーで誤魔化そうとしてるっ」
「誤魔化してるつもりはないけど、ちゅーだけで済むと思ってるならまだまだ甘いな」
「やだもう! 絶ッッッ対、これ以上はしないもん!」
「いやこっちはこっちで勝手にさせてもらいますのでお構いなく」
「~~~~~~~~~~~~っっ!」
吸い込まれそうな大きな瞳も、脳に響くような高い声も。なにもかもが愛おしい
ここまでくると病気だ。我ながら痛い自覚はある。そんな、まだまだ醒める気配のないナントカの病に冒された自分はともかくとして
愛良に関しては。そんなことをわざわざ神に縋る必要はないし、不安に思う必要もないのだ
乞い願う自分の手を取るか、撥ねつけるか。都度間違えることなく選ぶ それだけでいい
いまこの瞬間のように、耳許で囁く言葉を聴いて
「……今、そういうこと言うなんて……ずるい」
「そうだな……」
ふたりの願い事はひとつ。願い事は願いであって、約束でもある
絡ませ合った指先に力が籠ったのは、身体的な働きかけのせいばかりではない
艶めき濡れそぼる吐息の合間に呼ばれる自分の名を聴きながら、それに答えるかのように彬水は愛良の手を握り返した