色々100のお題 Type3 10:声を聞かせて
いちどめの放熱のあと、そのまま眠りに落ちてしまっていたらしい
寝乱れるとはまさにこのことか、辺りを窺うと、寝衣も下着も適当に放り投げられたまま
額にはりついた前髪を指で掬おうとしたその瞬間、じっと腕枕役に徹していたらしい俊の指先がそこに伸びた
「……大丈夫か」
「……っ。う、うん……」
「…………」
7月下旬、夏の盛り。この部屋にはエアコンなどという高級家電はない
もったりとした空気を回す扇風機の懸命な働きもむなしく、汗ばんだままの肌が、かえって、眠りに落ちる直前までの余韻を呼び起こす
こんな真夜中に目を覚ましてしまったのは、けして寝苦しかったからではないのだと
「……ご、ごめんね。起こしちゃった?」
「いや、起きてたし」
「そ……そう、なの?」
「…………ん」
やさしく髪を撫でていた手が止まる
熱を帯びた視線がぶつかり、思わず目を閉じると、それを待っていたかのように唇が重なった
軽く啄んでいた唇は、重ねるごとに濃度と深度を増し、次第に息遣いが荒くなるのがわかる
指先が耳に触れ、首筋から肩にかけてをゆっくりと辿っていった
暗がりの中だからなのか確かな名残があるからなのか、体の感覚はすごく敏感で、けれどそんな雰囲気に、抵抗なく溺れてしまうのは、なんだかひどく面映い
だからこれは逃げなのだ。上気した頬もそのままに、いつものように俊に呼びかけてしまうのは
「……っあ、あのねっ」
「……なに」
つんつんと肩を突かれながらの呼びかけに、蘭世の胸元から顔を上げた俊の顔は、若干不機嫌に見えた
でもそれは、怒っているからとかではなく。つい先刻の、具体的には、いつまでも話し続けようとする自分に対し、憮然とした表情と同じもの
同じことの繰り返しだ。けれど、それでも、逃げの一手を打っておきたいのだ
「こういうこと……勉強とか、したの?」
「…………。男の嗜みだ、文句あるか」
「(したんだ……)」
「うるせえよ」
「――――――あ」
有無を言わさず持ち場に戻る俊に、ほっとする。分かってくれている。―――多分
ただしその代わりに。ふくらみを玩ぶように添えられていたてのひらに、痛いくらいに力がこもる
圧迫から解放したかと思えば、すぐさまその先端に舌先で甘い疼きを落とし、空いたもう一方の手は下腹部をさらに滑りおり、蘭世の入口を指先で抉じる
手をつなぐ、抱きしめあう、キスをする。その嬉しさや心地良さは、少し前から知っていた
けれど、つい先刻知ったばかりの―――どこまでも優しいはずの手にひっぱり出されるこの感覚には、何度肌を重ねても、慣れることはできないような気がする
正確には、「そんな瞬間の自分に」なのかもしれない
普段の声とは違う、甘ったるく濡れた声。先刻はうまく抑えることができただろうか
いや、抑えることができていなくても。恥ずかしいけれど、それだけならまだいい
肌を重ねたせいで、知ってしまった。こういうことを、するのもされるのも大好きなのだ、と
息を止めてぐうとこらえる。次いで、シーツを握りしめて。果ては指を噛んで。だって、そうしないと
もっと触れて、絡めて、繋がって。―――そう言ってしまう
それを知ってか知らずか、俊は蘭世の指を避け、薄い布団に縫い止める
耳朶を軽く咬み、ついで口づけ。かかる息に震えるその隙を逃さず、俊が囁く
「昼間こっちは死ぬほど恥ずかしい思いしたんだから、声くらい聞かせろ」
「~~~~~~~~っ」
―――どこまでも逃がしてくれるほど、優しいわけではない