色々100のお題 Type3 18:逢えない時間 2
昨日訪問したにもかかわらず連日の訪問、しかもなぜか今日は完全アポなし
通常ならばありえない行動に彼女は驚きつつも、満面の笑みで自分を出迎えた
他愛もない話をし、あたたまった空気に誘われるように肌を重ねる。これまた昨日とさして変わらない過ごし方だ
なのに、こんななんでもないことがとても幸せなことなのだと、今日は特にそう思う
やはり、昨夜の妹とのやりとりがきいているのか、どうか
熱を帯びた身体を冷ます間に、ふと昨夜の名言(?)の一部始終を話すと、彼女はひとしきり爆笑したあと、真面目な顔になって頷いた
「まあ、でもわたしも愛良の言い分におおむね賛成だわ。あっ、今日はチョコ要らないけど」
「………………」
そういえば彼女もチョコ好きだった。ひとつ差しだすどころか、結局半分ずつ一気に食べつくしたのは記憶に新しい
主はこんなに華奢なのに、この部屋はいろいろなものが無駄に大きい。いまふたりが横になっているベッドも然り
なにひとつ不自由はしていないものの、庶民的な広さの家で育った卓にとって、この広さはいささか居心地が悪い(もっともその広さが、とある側面においては自分たちの行動を妨げないでくれることに利を見出してもいるのだが)。もちろんそのせいだけではないが、なんとなく彼女に身を寄せてしまう
一方、この無駄な広さ大きさに慣れているはずの彼女もまた卓にぴたりと身を寄せており、―――結果ふたりは広々とした部屋の広々としたベッドのど真ん中にいた。たがいにようやく慣れてきた腕枕に身を預けながら、彼女はこちらを覗き込む
「……で、卓としては、わたしのおなかがすいちゃう前に会いに来てくれたの?」
「なんかムカつく言い方するな……。逆だ逆」
「あらっ」
意外そうな顔をしたのが、果たしてどういう意味なのかは分からない
けれど知ったことか。できうる限り素直であろうと決めたのだ。いや、正確には、殊にふたりの間では、妙なプライドを固持する必要などないのだと、改めて思い知ったと言うべきか
「“逢えない時間が愛を育てる”、ねえ……」
そんな決意表明に気づいているのかいないのか、彼女は遠い目をして繰り返す
「……うーん、でもやっぱりそれって、なにかしら負い目があるほうの言い訳っていうか……。少なくとも、会いに行けるのに行ってないっていう自覚がある方が、そんなこと言っちゃいけないと思う。それとも……会わなくてもいろいろ分かり合っちゃってるつもりの、ものすごい自信家ってことかしら。わたしにはとてもそんな台詞言えないもの」
「おまえも不安ってことかよ」
―――「自分のおなかがすくのがいやで」こうして会いに来たのに?
どうやら自分は必要以上に傷ついた表情をしていたらしい。過去のことを思い起こすと、殊更に自分だけを憂う資格などないことも理解してはいるのだが
彼女は一瞬はっとして、そういう意味じゃないのよ、と笑いながら、もて余しぎみだった腕枕の先に自らの指を絡めた
「ちょっと前のわたしたちのことを言ってるんじゃなくてね。自信はあるのよ。でもちょっとだけ不安っていうか……安心なんてずっとできないと思うわ。会わなかったらもちろん、会っていてもずっと。もしかしたら、わたしなんかよりももっとお似合いのひとが、卓の前に突然現れるかもなあって」
「………………」
おれにはおまえだけだ。そんな直球のひとことは、素直化決意表明をした今でもなお、なにかのイキオイにまかせでもしなければ、照れに負けて言えそうにない。かわりに、絡めた指に力を込め、もう一方の手をそれに重ねるのが精一杯だ。言葉は悪いが「体は正直」それで許してはもらえないだろうか
「だからね、卓にふさわしい女の子でいるための努力は怠りません。中身はもちろんだけど、外見もね。……もいちど確認してみる?」
―――だからなんだってどいつもこいつもこっちを油断させておきながら、突然知らない顔になって攻め込んでくるんだ
いや、そんな艶やかな微笑みを本当は知っている、知ってるけども。こんなときにぶつけてくるなんて、卑怯だ。あざとい。勝てるわけがない
「……………」
「ん?」
「……………する」
「んっ……」
何もかもすべてを吸いつくすかのようにキスをしたから、彼女の返事は聞こえなかった。もっとも聞く必要もないけれど
それよりもむしろ、いつも以上に歯止めをなくして必要以上にこもった力で彼女の肌に傷をつけてしまいやしないか、それだけが気がかりだった。けれどそんな余裕があるのはあとほんの僅かのこと
全身が痺れるような感覚と、彼女の放つ花のような香りにうずまりながら、いわゆる愛の言葉とやら、荒い吐息にまぎれて囁いてしまうまで、さほど時間は要しない