・鳴る神:雷音


* * * * *







夕闇に紛れてしとしとと降り始めた雨は、次第にその雨足を強め
俊が部屋に帰り着くころには、雷を伴う叩きつけるような勢いのものに変わり
当然、傘など持ち合わせていなかった俊の身を、これでもかと言わんばかりにずぶ濡れにした

吹き込む雨風から身体全体でかばうようにして、郵便受けから弁当箱を取り出すのも忘れず
ぎりぎりに開いたドアの隙間から、部屋の中へと身を滑り込ませる
スニーカーを脱ぐと、靴下にまで見事に雨水が染み込んでしまっていて
俊は顔をしかめながらそれを片方だけ脱ぎ取った
そのまま、片足だけでぴょんぴょん飛び跳ねながら脱衣所へ向かい
ぐっしょりと濡れて重くなった衣服を脱ぎ、置き場もないのでとりあえず洗濯機へ放り込んだ

適当に選んだタオルを掴み、下着一枚のまま居間へと進む
もちろん、上がり際にそっと置いておいた弁当箱を片手に
がしがしと髪を拭いながら腰をおろし、ようやく俊はふっとひと息をついた

「………………」

9時までに家に帰るように そう約束しているから
彼女がここまで激しい雨に、ましてや、苦手な雷に遭ったということはないだろうけれど
いまごろ、布団をかぶってガタガタ震えているのだろうか
卓袱台の真ん中にちょこりと載った弁当箱を眺めながら、尋常ではない彼女の雷嫌いっぷりを思い起こした

俊自身、雷は嫌いではない。どういう仕組みなのかはイマイチよく判っていないが
空と地とが光の筋で繋がるその瞬間は、ある意味芸術的だとすら思えるし
響きわたる轟音も、腹に重いパンチをくらうようなあの感覚に、妙に気分が高揚させられたりする

けれど、例えばいまこの瞬間のような、ひとりのときの雷は、いやだ
稲光が走るそのたびに、彼女の姿がよぎり、会いたくなるから

もちろん、彼女のことを思い浮かべるのも、会いたくなるのも、いつものことだ
けれど雷鳴とともに浮かぶのは、笑顔ではなく、涙目で肩を震わせながら怯える姿
──────心が和むどころか、抱きしめたくなる。どうしようもないくらいに





居心地のよい場所から飛び出したのは自分だけれど
ひとりで過ごすのは、すでに限界なのかもしれない
さほど遠くないはずの彼女の家との距離が、今日はなんだかひどく遠いものに感じられる





窓を打ちつける雨も、闇に轟く雷も、早く止むといい
彼女のためにも、自分のためにも

髪の水分を吸い取り、だらりと下がったタオルを頭からかぶったまま、俊は
変わらず雨の降り続ける窓の外をただじっと眺めた