・空音:鳴き真似・空耳


* * * * *







その墓は、魔界の王家代々の墓が立ち並ぶ場所に造られたとだけ聞いていた

小高い丘の頂上にあるそこは、葬られた者の生前の栄華を誇るかのように
十分な手入れが行き届き、やわらかな色合いの花がそれぞれの墓標に添うように揺れている
ここは墓なのだと、改めて言われなければ気づかないほどの豊かな緑に
蘭世は思わずためいきをついた

「こういうこと言うのは不謹慎かもしれないけど……素敵ね……」
「ああ……」
「前に、カルロ様のご先祖様たちのお墓に行ったでしょう? 
ああいうところを想像していたから……驚いちゃった……」
「……本人にしてみれば、あっちに入りたかったんじゃないかと思うけど」
「うん……そうかもしれないけど……。でも、カルロ様には、明るいところにいて欲しいなって思うの
お花畑のなかに立っているのが、似合っていたから」
「花畑、ねえ…………」

髪の色を変える、ただそれだけで、周りに本人だと思わせるほど自分とよく似た相手が
よりによって、自分にはおおよそ似つかわしくないお花畑などが似合うと称されるのは
正直、微妙なところだ
蘭世の言葉にあいまいに答えつつ、俊はひそかに肩をすくめた

「だってやさしい方だったもの。……こんなに周りが立派だと、なんだかちょっと申し訳ないかしら……」
「……………………」

ある意味、威圧的にそびえ立つ墓標の前に腰を下ろし、蘭世は
ささやかながら、持参した花束を静かに捧げた
そこに刻まれた名を見つめ、ごくりと息を飲む



自分たちにその時がやってくるのは、果てなく遠い未来であること
また、なまじ、天上界とやらに行けてしまったり、夢枕に立たれてしまったりしていること
そんな環境下であったりしたから、死というものの感覚が薄かった

ダーク・カルロ───彼は、姿を消してしまったのではなく、死んでしまったのだ



「……………………」
「……どうした? って、うわ!?」
「…………」

じっと動かなくなってしまった蘭世のとなりに腰を下ろし、ふとその顔を覗き込んだ俊の目が点になる
いつもはさほど力を入れていない化粧を、いまこの時のために念入りに決めてきたというのに
陶器のようなその頬を、ぼろぼろと溢れる涙が容赦なく滑り落ちていく

「……と、止まらなくなっちゃっ…………」
「マジかよ……」

肩を震わせる彼女を抱き寄せるかわりに、俊はポケットからハンカチを差し出した
他の場所ならともかく、この場所で彼女に触れるのは、たとえ情欲的な目的からではないのだとしても
なんとなく気が引けたからだ

「…………あんまり、泣くな」
「……う、うん……ごめん、な、さい……」
「……おれも困るけど……あいつが見てる」
「………………うん……」

“あいつ”という単語にぴくりと反応して、蘭世はうつむき、手渡されたハンカチで目元をぐっと押さえる
再び顔を上げたそのときには、少し目が赤いままではあるものの、いつもの笑顔に戻っていた

「遠慮しねえで、鼻もかんでいいぞ」
「……っっ。鼻水なんて、出てませんっっ」
「へえ…………?」
「やだっ! もう、いじわるっ」

それでも昔よりは、だいぶそのやさしさが判りやすくなった
鼻のあたりを覗き込みながらからかうように笑う俊に、べえっと舌を出しつつ、蘭世は立ち上がる
腰から裾に手を滑らせて衣服の形を正す。それはかつて、彼からもらったもの
心持ち腕を広げてしゃきっとポーズをとり、蘭世は静かに目の前の墓標───彼へと問いかけた

「……だいぶ遅くなってしまったけれど、着てみました。どうでしょう、か……」



──────もちろん、よく似合っている

その声が、音として耳に届くことはもうないけれど
それは確かに心に届く。そんな気がして、蘭世はふと目を細めた

こぼれたそのほほ笑みはごく自然で、とても美しい。にこにこと佇む彼女のとなりで俊は
彼女にそんな表情をさせてしまう彼という存在に対して
それまで感じたこともないほどの深さで嫉妬した