そのキスは、それまでの、やさしく触れるだけのものとはまったく違っていた

重ねた唇のすきまから差し入れられた舌は
ゆるゆると蘭世のそれを求め絡みつく
そこから吸い取られてでもいるかのように
力が、気を抜けば倒れこんでしまいそうなほど抜けていくかわりに
体の奥からじわりと、未知の感覚がにじみ出て
どうしようもなく蘭世は、彼のシャツを縋るように掴んだ

頬に添えられていたてのひらは、垂らした髪を梳くように撫でていく
髪から放れたその指が、固く閉ざした脚にのびた瞬間
思わず声が漏れた

「………………っっ」
「うん?」

ぴたりと手の動きを止め、彼は蘭世の顔を覗き込む
見返した瞳が潤んでいるのに気づき、満足気に笑った

「…………どうした?」
「ど、どうした、って…………だって…………!」

その理由をいちばん良くわかっているのは他でもない、彼本人だというのに
しれっとして問いただす

「……っこ、んな感覚、はじめてなんだもん…………」
「………………怖いか?」
「!!」

“怖い”の主語は“おれが”

怖くないといったら、嘘になる
けれど、怖いのは彼のことではなくて──────

答えあぐねる蘭世の肩を彼は引き寄せ、強く抱きすくめた

「……まあその、あれだ。諦めろ」
「ええっ!? ………っは」

悲鳴を上げた蘭世の耳朶に齧りつく
単なる野暮天のようでいて、それでも
ことこちらの面に関しては、彼なりにずっと耐え続けていて
──────もう、限界だったのだ

一方、その手のことに疎い蘭世でも、うすうすと感じ取ってはいた
なぜ彼が耐えているのか、についても同様に

「…………痛かったら、言え」

心持ち震えた言葉に、目を閉じて頷く
覚悟を決めるのは、そのひとことで充分だった