音を殺して扉を開ける
薄暗がりのなか目を凝らして見た時計が指すのは、すでに明け方近く
足音を忍ばせ、ゆっくりこっそり部屋を進むジョルジュに、サリはおもむろに声を掛ける

「おかえりなさい」
「……っと。あ、悪い……起こしちまった……か」
「ううん。横になってはいたけど、起きてたから」

黒いマントを脱いでいる間に、サリは熱いコーヒーをカップに注ぐ
ふたりでひとりの自分には、ノンカフェインのハーブティ
あたたかな湯気をただよわせるそれらを手に
テーブルにつくそぶりなど微塵も見せず、それまで自分が横たわっていたベッドに向かうジョルジュを追う
ベッドに並んで腰をかけ飲み物を摂ることには、もう違和感はなくなった
そのためのサイドテーブルまでしつらえたくらいだ

かちゃかちゃと小さな音を立てふたつのカップをそこに置いて
ふと覗き込んだジョルジュの顔は、なぜかいつも以上に暗く影がさしたように思える

「どうかしたの?」
「え」
「……なんだか、疲れてるみたい」
「ん───……」

弱ったなあ、というようにジョルジュはぽりぽりと頭をかく
ゆるやかなウエーブを描く髪が、ゆらゆらと揺れる

「後味悪い仕事は、ぜ───んぶおれに持ってくるからねえ……うちのおえらいさんは」
「そうなの?」
「うん───……今日はガキばっかりだった……正直、まいった」
「…………」

死に至るのはなにも十分に天寿を全うした者ばかりではなく
年端もいかない子供だって当然のように存在する
その要因だって文字どおり多種多様で
自ら死を選んだ者、その意思に拘わらず死へと追いやられた者
今日の最後の標的の、まだあどけなさを残すその表情が未だに胸に重く残っている

課せられているのも許されているのもただ淡々とリストに従い魂を狩ること、それだけ

生殺与奪の権がどうあがいても自分のもとにはない以上
感情に流されたら終わりだ それくらい判っているけれど
たまに、どうしようもなく引きずる 引きずられる 深い闇に堕ちていく

「非生産的な仕事だよなあ」
「え……。あ」

ぽつりと呟き、もたれかかるようにその身を沈め、ジョルジュはサリの両腿に頭を乗せる

「ちょ……コーヒーは?」
「あとで飲む」
「冷めちゃうわよっ」
「いいよ」
「……もう……」

ごろりと体の向きを変えると、大きく張り出した腹が視界いっぱいに迫る
鼻先を当て、締めつけすぎないよう気をつけながら
腰に回した腕に力を込める

「あ───…落ち着くねえ───……」
「なに、それ」
「ん───……」

死神が子供を作るだなんて、極めて矛盾
本当はずっとそう思っていた

けれど今、沈んだとき腐ったとき、自分をここに繋ぎとめてくれているのは
他ならぬ、この腕のなかの───今はふたつの───存在だけ
心持ち顔を傾け耳を当てると、確かに聴こえてくる命の証
日を追うごとに強くなるその手応えは、早くここから出たいとはしゃぐ声にも思えて

「おれも早く会いたいよ……」
「へ?」

唐突に呟いたジョルジュの顔を、サリは見下ろす
余程のことでなければ、自分の業に対し愚痴めいたことはこぼさないその相手に
(それをどうしようもなく気にかけたとしても)言いたいことは聴く・言いたくないことは聴かない主義の自分だから
その、前後の脈絡のない呟きへと至る経緯は判らないし、きっと尋ねることもないだろうけれど

「……そうね………」

自分の膝の上でにこにこと無邪気に腹を撫でるその姿に
まあいいかと肩をすくめ、サリは豊かに波打つ銀の髪に指を絡める