鳴らしたチャイムに間を置かず、勢い良く扉を開けた彼女は
いつもとは違いふわふわで華やかで、思わず本音がもれそうになった
部屋中に漂うおいしそうな匂いとあたたかさ。時折ぱちぱちとはぜる暖炉の薪が
彼女の母が奏でるピアノの音に合わせて歌っているようにも思える
今日は、クリスマス・イブ
母は、そんな時期だからといってほいほい休めるわけではなかったし
自分自身、そんなイベントごとに浮かれるなんて子供じゃあるまいし……と思い始めるのも早かったから
こんな、いかにもなホームパーティの場に存在すること自体初めてのことだった
今日がちょうど誕生日だという彼女の弟が、大きなホールケーキに並んだろうそくの火を
ふうっと吹き消す姿を、にこにこしながら他の目が見つめる
それは絵に描いたような幸せ一家団欒の図で
彼女がいかにして今の彼女となっていったのかが垣間見えたような気がした
誘われるまま、反射的に行くと答えてしまったけれど
本当は、少しだけ抵抗があった
母には感謝しているし、今の暮らしにも何ら不満はない。けれど“もし”が思い浮かばないわけでもない
そしてそれを思い浮かべる発端として顕著なのは、他の家庭の情景を目の当たりにしたその瞬間だ
記憶の片隅にも残っていない分、理想のみで作られるイメージだけが膨らんでいく
けれど現実はあくまでも現実のまま。一気に沸き起こる切なさをため息でごまかす
そんな心理的悪循環も最近は少なくなってはきたけれど、それでも。そう思っていたから
けっして誉めてほしいわけではない。同情してほしいわけでもない
今の自分に不自由はないし、十分幸せなのだから
けれど、吐き出す瞬間をずっと求めていたのかもしれない
自分に対し静かに問い、自分の話に対し静かに耳を傾ける、彼女の父との語らいは
ふとそんな自分に気づかせてもくれた
“気を遣ってくれたのだろう”そう尋ねたりしたら
きっと彼女は表情を曇らせるであろうことくらいは判っているけれど
それでも言わずにはいられなかった
彼女のそばにいるといろいろなことに気づく
自分ひとりでは気にも留めなかった、あるいは、無意識のうちに見ないようにしていたことまで
こんな日だから、そして何よりありがとうの気持ちを込めたくて。誘われたその日からぐるぐる見て回り
ようやく今日になって決めることができたプレゼント。けれど、目を見ながら手渡すことはやっぱりできなかった
ふり向きざまの割に、我ながらなかなかのコントロール。赤いリボンに包まれた小箱が描く放物線の先には
目を真ん丸にした彼女が立っている