うららかな午後、泉と花々とをぼうっと眺めながら
サリはしばらくそこに座っていた
「恋人の森」なんて、いかにもなネーミングの場所に
一人で、しかも今の自分が佇むのはどうなんだろうと思いながらも





きっかけはほんの些細なことだった





自分が我が強いことは自覚しているし
そしてジョルジュもまた、真っ直ぐというか融通が利かないというか……なので
どちらが悪い、というわけでもないのに
二人の意見がぶつかるのも、そう珍しいことではないし
三日も経たないうちからどちらからともなく歩み寄り、仲直り……その繰り返し
なのに
今日で丸ひと月、サリは一人のベッドで夜を過ごした



「……なんで、会いに来ないのよぅ……」


自分も出向かなかったことも、何もかもを棚に上げて、サリはつぶやく
『なんで』 そんなこと、自分が一番よく判っていること
言い争いになった直接の原因よりも
多分、自分の最悪な捨て台詞が、今の状態を招いたのに違いなくて



──────わたしは、蘭世と違って物判り悪いからねっ!



我ながら馬鹿なことを口走ったものだ
蘭世に限らず、他の誰とも、比べるような言葉を投げつけられたことなどないのに
けれど
彼女の繊細さや、人を一途に想い続ける強さや、逆立ちしたって真似できない素直さ
惹かれた理由であり諦めた理由であるそれらが判るから
何かあるたびにいつも、平凡な自分を呪って
それでもずっと口にせず我慢してきたのだけれど
我慢してきたこと自体、多分ずっと前から、彼には悟られていたのだろう



……いつまでおまえ、そこにこだわってるつもりなの?



そう、わたしは
いつまでこだわり続けるんだろう
たったひと月がものすごく長く感じて
そのひと月、会えなかったというだけで
『泉のほとりで愛を誓った二人は永遠に結ばれる』
そんな迷信に縋ってしまうほど
心のバランスが崩れてしまっているというのに

「…………」

覗き込んだ泉に映った顔は当然、自分の顔の筈なのにどこか不安げで頼りなくて
こんなにも誰かの動向に振り回される自分が滑稽で
───でも、それでも、もうひとりではいられないから



会いに、行かなくちゃ



そう決意して立ち上がろうとしたその瞬間

「……お〜、こんなとこにいたか〜〜」

聞きたくてたまらなかった声が、背後から能天気に響く

「───!! な、なんっ……」

慌てて振り返ると、その姿は案外近くにあって
声と同様に、にこにこと微笑みながら真正面に腰を下ろす

「ん? ああ……最初、家に行ったら出かけてるって言われてさ
んじゃ天気もいいし、この辺かなと思って来てみたんだけど」
「そ……」
「そういえば、最近ずっとおまえの元気がないとかって、ルルが心配してたぞ
何かあったのか?」
「……え」

『何か』って、何もなかったとでも思ってるわけ?
逆ギレチックに言い返そうとしたのに

「もしかして、おれと全然会ってなかったからだったりなんかしてな♪」

図星をぴたりと突かれると、人は案外弱くて
ただでさえ危うい状態でかろうじて留めていた感情が、一気に溢れ出す

「……ぅ……え……」
「……って、おい!?」

ぼろぼろと零れ落ちる涙でぐしょぐしょの顔を押し付けると
その胸は懐かしい匂いとあたたかさでサリを迎えて
ますます涙を誘発させて
ここ最近ずっと忙しかったんだよ〜、とか、悪かったよ〜、とか
きっと頭をぽりぽりとかきながら困りはてて嘆いているのであろう恋人の声を頭の上で聞きながら
サリは延々と泣きつづけた