今夜のお食事は久しぶりにうちで。そう誘った相手は、俊が訪問した時には家におらず、買い物へ出たばかりとのこと
示されたスーパーへ足を運んでみると、既に買い物は終わっており
山のような荷物を詰め込むべく、レジからカートをガラガラと押しているところだった
駆け寄る俊の姿を認めると、にぱっと笑う
つられて顔を緩ませつつ俊は、その手をよけ、見るからに重そうなカートを引き取った
「………すっげえ買い込んだな………」
「ふふ。おかあさんったら、久しぶりに真壁くんのご訪問だからって
すっごい張り切っちゃってて……あれやこれやって、もうタイヘン」
「なんか、却って申し訳ねえな」
「やだ、全然そんなことない! おとうさんも鈴世も喜んでるし……
ほら、ちょうど他の食材も切れてたところだったのよ。お米とか」
「そっか」
確かにそれは、どう見ても今日の夕飯のみで食べきる量ではない。俊はほっとして笑った
とはいえ、この荷物……
日々のトレーニングとバイトとで鍛えた自分の腕力であれば、さしたる問題はない重さではあるのだが
果たして、隣を歩く細腕の彼女は、どうやってこれを家まで運ぶつもりだったのか───
そんな俊の素朴な疑問の解答は、なんともあっさりとしたものだった
「ああ……。荷物の配達、お願いするつもりだから」
「は?」
我が耳を疑いつつ、サッカー台に添えられた宅配料金表を見やる
袋に詰めて依頼すれば、その日の夕方には自宅まで届けるというそのシステムは、距離ごとの従量課金制
徒歩10分強の道のりから換算するに、最低料金ではある、の、だが
「何言ってんだ、もったいねえだろ!」
「ええっ!? そ、そりゃそうだけど……重いからって、おかあさんが……」
「バカ。おまえに持たせようなんて思ってねえよ」
「え………!!」
と、言うが早いか俊は、ビニール袋にひょいひょいひょいっと荷物を詰め込む
肉のパックとパンと野菜と缶詰と牛乳パックと。きちんと順序を考慮したうえで重ねられていくその作業を
意外に手馴れたものだなと蘭世がぼうっと眺めているうちに、俊はそれらをしっかり詰め終え
再び蘭世を振り返った
「なんのためにヤローが来たと思ってんだ」
「……!! だ、だめ! 重いってば!!」
「これくらいなら、慣れてるって」
「でも」
「しつこい」
「………………。……ありがとう……」
もじもじと遠慮がちに、けれどとても嬉しそうに蘭世は微笑む
そんな笑顔が見れるのなら、こんな荷物なんかいくらでも、もりもり運んじまうぞってな話だ
(実際、この程度の重さなら全くもって問題ないのだけれど)
───なんてことは当然口にできるわけもなく、ただ、満足気に俊はニッと笑い、米袋とその他の荷物に手を掛ける
その脇から蘭世は、数ある食材の中からひとつだけより分け袋に入れた、西瓜に手を伸ばした
「じ、じゃあ……こっちは私が持つね!」
「え!? だから、いいって」
「持・つ・の! これくらいなら、だいじょうぶっ」
「……………」
そう言って力強く笑うと、蘭世はしゃきしゃき歩き出してしまった
持たせてしまうのは不本意ではあるが、この手の申し出は、一度言い出すときかないこともよく知っている
(そしてそれはお互い様)
米袋と、その他食材入りのビニール袋。それは右手でこと足りる
結果、もともと西瓜を持つつもりだった左手はお手すきになってしまい───
そう簡単に離しそうにない西瓜の袋と、カットの入った袖からちらりと覗く細い肩
この場合、果たして自分はどこに手を添えるべきなのか
「……………」
今度の素朴な疑問(?)への解答を得る道は、なかなかに手強い
さらにおまけ