雲とピアスとパラダイムシフト
01 羊と死神
「ルルってさあ、ごはんのときいっつも居ないよな? ……あっ、羊は紙が好きなんだっけ」
ジョルジュとしては、ここ最近頻繁にごちそうになりに来ている家の主の相棒が、食事時にほぼいつも姿を消すことが気にかかっての発言だったのだが、そことはちがう箇所にルルは引っかかった
「ボケなんだか本気で勘違いしてるんだか分からないからいちおう言うけど、お手紙待ちきれずに食べるのはやぎさんだからね」
「そうだっけ」
「がらがらどんもちがうから」
役割上、シナリオ=紙を食べているだけであって、別にそれがルルの主食なわけではない。なんなら牧草も食べるし果物も食べるしサリと同じテーブルにつき一緒にごはんを食べることもある。ただ、最近は
「あのね、王様から『ダイエット中だから定期的においしいもの食べまくる夢を見て、実際に食べる量を抑えたい』ってご依頼があってね、そのシナリオを二日おきくらいで食べてるから……ぼくのおなかもいつもいっぱいなんだよね」
「……アロン王……なにやってんだあいかわらずだな……」
サリの持つ魔力は、ターゲットに自在に夢を見せ、その内容を実際の記憶として植え付ける。王とおなじくダイエットを気にしていなくもないジョルジュとしては、その手があったか! と思わなくもないのだが、王子のころから魔界の住人を私物化し過ぎというかなんというか……という思いが先に立つ。憎めないキャラクターなのがつくづく羨ましい。まあ、なんとなく顔を合わせる機会が増えたものの下っ端の身であるジョルジュには、そもそも口を出す権利も何もないのだが
「サリちゃんの描くシナリオの食べ物はおいしいよ。なんていうかね、全部がみずみずしいの」
「へえ」
あきれた調子のジョルジュに、ルルは駄目押しで付け足した。実際、たまにいくアルバイト先で食べさせられるまずいシナリオとは違い、サリの描くシナリオは味覚や嗅覚にぐっと訴えてくるのだ。だからいつもいい感じにおなかいっぱい夢いっぱい。ただ、食事どきに頻繁に席を外す本当の理由はそこではない
───そりゃおふたりさんがごはん食べるときくらい遠慮しますよ
昨晩から今夜のメニューをあれこれ思案し、いまは扉の向こうで右往左往しながら食事を作っているこの家の主と、それを茶などしばきながらのんびり待つ目の前の陽気な死神。傍から見てればいい感じなのはバレバレなのだからさっさとくっついてしまえばいいものを、なにを気にしているのかそれとも瞬発力が足りないだけなのか、なかなかうまいこといかないふたりを交互に見やりながら、ルルはため息をひとつついた
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