雲とピアスとパラダイムシフト
02 執事と羊

例の二人の逢瀬のあいだ、気をまわしたルルが根城としたのは、王の『あいかわらずな依頼』をこなしていく過程の事務処理でちょいちょい顔を合わせた結果なんとなく仲良くなった、王の執事というか子守というか……の、サンドの居室だった
二人の逢瀬が食事どきなら、おなじくサンドにとっても食事どきである。最初の訪問こそ驚きはしたものの、回数を重ねるうちに、互いに細かいことは気にしなくなった。サンドが食事をとっているあいだ、ルルはルルで寝転んだり本を読んだりと自由に過ごし、食後のお茶だけいっしょに楽しむというのがここ最近のルーティンとなっていた

「ジョルジュってさ、なんであんなヘタレな感じなの!?」
「…………」

そのお茶を出すか出さないかのタイミングで発せられた、穏やかな時間をぶち壊す、かつ長年の親友をこき下ろす発言に、サンドは反論を試みようとしたものの……その発言の主が誰の相棒であり、誰に対しての「ヘタレ」加減を示す発言なのかを反芻した結果、あっさりそれをあきらめることとなった

「それとも、サリちゃんになにか不満でもあるってわけ!?」
「あ、それは無い」

こちらは即座に否定した。目の前で、いつもなら顔をうずめたくなる豊かな毛を逆立てながら怒り心頭で訴える羊ほど、サリの人となりについて把握しているわけではなかったのだが、たまに顔を合わせた親友の死神から漏れ伝わってくるのを聞くかぎり、いわゆる「気立てのいい女性」で───そもそも話題にのぼる頻度とかその時の表情とか、その他もろもろから察するに、サリに対して不満などとはもってのほか。憎からず思っている、もっと正確に言えば、相当に好ましく思っているのは明白だったから

一方で、長年の付き合いを経てなんとなく見えてきたことがある。こと女性とのおつきあいについて、なんとなくいい感じに進んでいそうな雰囲気であっても、しばらく経つときまって「フラレた」と終了のお知らせがくるのだが、あれはむしろ彼のほうが……なのではと思わされるふしがあった

ルルによる「ヘタレ」との見立ては間違ってはいないが、ほんの少しずれているのだと思う。彼が恐れているのは、下手に攻め込んで相手に拒否されること、あるいは今までの関係が崩れることではなく、そもそも恋愛が成就すること自体を恐れているのだという点で
ただ、部屋にふたりきりになってその結果、いろんな意味でどうなってもいろんな意味で大丈夫だと、他ならぬその相手に、そしてその相棒にまで絶大な信頼をとりつけるほどの関係になってもなお、「ヘタレ」が発動する・しそう……というのは意外だったが

───そこまで「種族の違い」とは重い枷なのか

「じゃあなんでいつまでもくっつかないでいるの? 今日の感じだとまたごはんだけで帰っちゃいそうだよ」
「なんでかは分からないけど……こういうのは周りが首を突っ込むとロクなことにならないから……」
「だからぼくもここに来てるんだよ~~! もう~~!」

と、もふもふの毛を揺らしながらやけっぱちのように嘆くルルに、サンドは改めてお茶をすすめた。ワインなど出していたら収拾がつかなくなったかもしれないな、などと思いながら



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