唐突ですが、貴方様は「らんま1/2」という作品をご存知でしょうか

ダプルパロディ といえば聞こえがいいのかもしれませんが…
今回のお話は、「ときめきトゥナイト」という作品はもちろんのこと
「らんま1/2」という作品における、主人公の特異な体質の設定をお借りして
書いたものです
すなわち(私の技術が稚拙ゆえ楽しめない、という根本的な欠陥はひとまず置いておいて)、
「らんま1/2」という作品の設定をご存知ないと、意味がわからないのは勿論ですが
「らんま1/2」という作品の設定をご存知の上お読みいただいたとしても
貴方様の、両作品に対するイメージを損ねてしまい気分を害されてしまう可能性があります

それでも構わないよ、という方のみ、下記スクロールお願いします




















「どうしたの? なんだかちょっと元気ないみたい」

久しぶりに二人で出掛ける道すがら、愛良は隣を歩く開陸の顔を覗き込む

「え? あ、いや……」
「もしかして開陸、具合悪い? もしそうならプールやめてアトラクで遊ぶだけでもいいし
このまままっすぐ帰ってもいいけど……」
「バカ。大丈夫だって」

ふたりが目指しているのは、大きめのテーマパークとそれに併設されたプール
どこに行くかという話になったとき、真っ先に水着を新調したことを挙げ
ニコニコと浮かべた極上の笑みに陥落し、現在に至るというわけである
(他の候補地も特になかったという理由もあるが)

「───あ、それとも」
「ん?」
「やっぱり水が怖い…とか」
「………ケンカ売ってんのかおまえ……」

心配しているのかどうなのか、にやにやしながら探るような目つきでこちらを見る愛良に
開陸は軽く睨みをきかす

───確かに
水が全く怖くないかと問われれば、即座に否定はできないと思う
渡航中、ひとり海に投げ出され溺れたときの記憶は、未だ碧い色も鮮やかに思い起こされるほどのトラウマ

けれど
少なくとも今の自分が何となく憂欝なのは、紛れもなく朝の夢見のせい
いつもと違う、瑞々しく艶っぽい声をあげながら、目の前で愛良がよがる夢

夢の中で愛良を犯すこと それ自体は何も今回に限ったことではなく、もう何度も焦がれるように夢に見た
しかし今朝方の夢の中、白い肢体を蹂躙している自分の身体は
今の自分ではなく、過去の自分───新庄彬水の身体
その指を唇を舌を求めて喘ぐ愛良を追い詰め、自分も絶頂へと達しようとした瞬間
目に映ったのは自室の天井
最高なのか最悪なのか全くもって判らないそんな夢にうなされて目覚めた朝




目覚めの直前に見る夢は願望だったり不安だったり、いずれにしても
今、その者の心が一番捉われている感情の顕れだという





年齢的にも環境的にも当然と言えば当然に持ちうるであろうとはいえ、そんな欲にまみれた自分と
過去の自分・今の自分 果たしてどちらが本当は───と未だ不安に襲われる弱い自分への嫌悪感に
ただただ打ちひしがれるばかりで

「あはは。……でも、ホント無理しないで大丈夫だからね?」
「…………」

黙り込んだ開陸を、愛良は笑いながらもふと真面目な表情になって覗き込む
普段は、ああ言えばこう言う、口の減らない奴なのに
こんなやりかたで唐突に自分の心を再確認させるのだから、卑怯だなと思う

「バーカ、大丈夫だって…。ほれ、行くぞ」

わざと乱暴にそう言って開陸は、愛良の肩にかけられた大きめのカバンを手に歩き出す











───こりゃ、見せたくもなるわけだ……

おのおの更衣スペースで着替えたあと、待ち合わせたプールサイドで開陸は
自分よりもほんの少し遅れてやってきた愛良を目の当たりにして思わず息を飲む
派手すぎず地味すぎないホルターネック。一見、幾何学的にも思える細かな花模様が
じっと見ていると吸い込まれてしまいそう(勿論、吸い寄せられる理由はそれだけではないが)

「───あ、見とれてる♪」
「!! だ…誰が! うまく寸胴を隠してるなって思ってただけだよ!」
「はあ!? 開陸ってば、目ぇおかしいんじゃないの!? 見なさいよっ、この優雅なくびれ!」
「あ───、はいはい」
「もう〜〜〜〜〜〜っっ」

図星を突かれて開陸はぱっと目をそらす
狂おしいほど興味をそそられるのは、中身だけだろうと思っていたのだが
適度な大きさの布に包まれてほどよく見え隠れする姿というのもこれまたなかなかそそられるもので
妙に熱くなりつつある頬を即座に隠しきれたか、どうか

「…………」

流石に休日、しかも天気が極上に良いだけあってプールの中も外も人が多い
浮き輪を手にした親子連れも多いが、圧倒的にその客数を占めているのは
やはりと言うべきか、男女二人連れの所謂カップル
ところ構わずいちゃつきながらところ狭しとふたりの世界を創り上げ
流れるプールの水流に任せ、絡まるように流れていく
こっ恥ずかしい奴らだなと思いながらも、少しだけ羨ましいと思いつつあるのも事実なのだけれど
とはいえ、今しがたの会話の流れから、いきなりそんな上々のムードに持ち込むのも難しく

「ん───、まあとりあえず、入ろっか」
「……あ、ああ………」

愛良はそんな開陸の心境には全く気づくことなく、さっさと一人プールへ足を浸す
古き時代からの教えに沿い、心臓に遠いところからぱしゃぱしゃと手にした水をかけていったかと思うと
とぷん、と、さほど飛沫を上げることもなく飛び込んで
プールサイドに立ち尽くした、なんだか乗り遅れてしまった感のある開陸を振り返り
ふと何か思い出したような表情を浮かべる

「───あ、そういえば」
「え?」
「うふふふふ───」
「……何だよ、気色悪りいな」
「あの、ねえ………」

と、愛良は
それまでの勝気な表情が嘘のように、ふわりと優しく微笑み
開陸を見上げて言った

「覚えてる? 開陸が新庄さんだったころ、あたし、一緒にプールに行く約束したのよ」
「…………」


──────どくん
心臓が、大きく、高鳴る


残念ながらそれは、開陸の心からは零れ落ちていた記憶の欠片
なのに今、唐突にそれが思い出されて胸に蘇る

そう、確かに自分はあのとき目の前にいる相手とそんな約束をして
そのときの自分も今の自分と同じく、水が苦手で
でも、変にプライドが高い分、そんなことを目の前の相手に暴露できるはずもなく
けれど、目の前の相手と一緒ならば、そんな苦手意識も吹き飛ばせる筈だと妙に確信めいた気持ちを抱きながら
その場を凌ぎつつも次に繋ぐような言葉を吐いた。───それは、その答えは

「そしたらねー、大人な水着が似合うようになってからな、って言ったのよ
 あの時の雑誌ほどじゃないけど…なかなかでしょ? なあんてねっ」
「…………っっ………!」

にこにこと邪気のない微笑を絶やさぬまま、今一番聞きたくなかったことをへろっと口にする






やはりというか何というかその水着は
その時のために買ったもので
他の誰でもなく、その相手のために買ったもの

愛良の中では、自分とその相手はイコールで繋がる存在なのかもしれない
けれど
自分の中では、自分とその相手はどうしてもイコールで繋げることができない

そのやりきれなさが、今朝の夢を創り上げたのだというのに

「───それを、今、言うのかよ…………!」
「え!?」

例え愛良には理不尽な怒りにしか見えなかったとしても
今の開陸には暴走する焦燥を、不安を、留めることなどできるはずもなく
その身体を水に慣らす等の準備もなしで、開陸はプールへ一気に飛び込む

派手な音を立て、それに比例するかのように散る飛沫
瞬時にして開陸の身を包みこむ、冷たい水
頼りなくもがきながら溺れていったあのとき以来、久しぶりに得た感覚

自分とは思えない自分へ向けるそんな微笑みは、少なくとも今は見たくなかった
なぜなら
自分とは思えない自分のほうが、本当は、もしかしたら
隣で微笑むに値する存在であるのかもしれないから
今の自分は本当は、もしかしたら
ここにいてはいけない存在なのではないかと思ってしまうから








───やっぱり、あいつにとっては───








そう思った瞬間
開陸の身体を、いつか一度だけ感じたことのある痛みが襲い掛かる

「──────!」

身体が細胞単位でばらばらになり、再構築されていく───そんなイメージ
全身を走る震えのあまり、身動きがとれず、息はがぼがぼと吐くしかできず

「え!? や……やだっっ! 開陸っっ!?」

もがきながら、やけに深く感じる水底へと堕ちていこうとする自分の身体をなにかが支える
ぼやける視界のなか目を凝らすと、やけに驚いた表情をした愛良の顔

───ああ、何だかんだ言ってまた、おれはこいつに助けてもらっちまうわけだ───

妙に他人事のように思いながら、ふと水に漂う自分の掌に目をやると
なぜか目に慣れたいつものそれよりも、ひとまわり大きく視界に飛び込んできて

───え……?

水中から引っ張り上げられるように顔を出す
ふと全身に感じる違和感と、やっぱり驚いたまま、むしろ先刻よりも青ざめてしまった愛良の顔に
わけがわからぬまま掌を見やると、やっぱりひとまわり大きくて

「───え……っと……?」
「か……開陸……っっ」

自分を指差し、その名を呼ぶことしかできずにいる愛良をよそに
水に映った自分の顔を見て、開陸は一瞬にして全身の血の気が引いた気がした

「お……大きくなっちゃってる………っっ……!」
「……………!!」






そこにあるのは、大きくなった───今朝の夢の中にいた、自分とは思えない自分の姿



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