「───で、どうだった? 開陸のようすは」
「え?」

開陸の飲み干したグラスをシンクで洗う蘭世の背中を眺めながら
リビングから俊が静かに問い掛ける

「あ───…。わたしが開陸くんのとこに行ったって、ばれちゃってた?」
「まあ、な……開陸が凹んだことくらい察していたようだし
きっとフォローしに行くんだろうなと」
「エヘ」

水道を止め濡れた手を拭い、いそいそと蘭世は俊の腰掛けるソファへと進む
俊は当たり前のように身をずらし、隣にあいたスペースに腰を下ろすよう促す

「余計な心配かとも思ったんだけど…変な誤解が生まれちゃったままじゃ
寂しいじゃない? 開陸くんも、愛良も」
「……まあ……。多少混乱しているとはいえ、傍から見たら
はしゃいでいるようにしか見えなかったからな……」
「ええ……。でも、無理もないのよね…あの子、新庄彬水くんとしての開陸くんも
本当に大好きだったから…」

ちらり、と横目で蘭世は俊の顔を覗き見る
それには反応せず、俊はそ知らぬふりをして続ける

「……開陸の心を覗いてみたんだが、おれにも判らなかった」
「あらっっ」

にやにやと、「微妙な笑み」としか表現し得ない笑みを浮かべながら蘭世は
今度はまっすぐに俊の顔を見る

「………なんだよ」
「ん───?
……ふふ。単に、不機嫌なのかと思っていたわ、お食事中のあなた
開陸くん、かわいそうに萎縮しちゃって…」
「『不機嫌』って……。なんで、おれが」
「え? 言っちゃっていいの? ……開陸くん……娘の彼氏くんが突然大きくなっちゃって
娘がいつかとられちゃう日を思い浮かべて、不機嫌に……」
「バーカ」
「そう?」
「……………っっ」

言葉とは裏腹に、一気に真っ赤になっていく俊の頬
実際に、開陸の深層心理を探るべく心を読んだが故の、硬い表情であったことは間違いないが
その一方で、父としての彼が色々と悩みどころにあったところは明白な話で

こみ上げる笑みをギリギリのところで押し殺しながら
蘭世はゆっくりと手を伸ばし、膝の上で組み合わせた俊の両手の上に重ねる

「まったく、もうっっ」
「……ん?」
「あなたには、いつもわたしがここにいるでしょう?
それともあなた、わたしより愛良のほうが大切なの?」
「…………」

一瞬だけ、冗談とも思えないような表情を見せて
すぐさま蘭世はにこりと微笑む
俊はといえば、やっぱり当たり前のように、一瞬のうちに陥落してしまう
その答えは口にするまでもなく、それでもそれを再確認するあたりが

「……汚い訊きかたするな……」
「ふふ」

猫がその身をすり寄せるようにもぞもぞと、隣に座る蘭世を抱きしめて
俊は、からかうように微笑むその唇に、自分の唇をゆっくりと重ねていく



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