色々100のお題 Type3 15:手を伸ばせば、すぐ其処に

今日は久しぶりにデート尽くしの一日だった

顔を合わせること自体久しぶり、且つ、明日のバイトのシフトは午後からという好条件も手伝い、帰り道はいつもよりもほんのすこし遅い時間帯となった
とはいえ、俊が蘭世を江藤家の門の前まで送り届けるこの習慣は、なにも今日に始まったことではない
ただひとつ異なるのは、いつもなら割合あっさりと手を振り立ち去っていく筈の俊が、なにやら物言いたげに佇んだまましばらく経つということだけだ

そういえば、帰りすがらの口数も少なかった。もともと口数の多い方ではないけれど―――なにか、やらかしちゃった……かなあ。蘭世が切り出しかけたその瞬間、若干言い淀みながらも俊が重い口を開く

「……さっきの話だけど」
「へ?」





俊の言うところの「さっき」とは。帰路に就く直前の出来事のことだ
買い物と食事と。今日いちにちのほとんどを過ごした繁華街を離れようとしたころは、お酒が入っていてもいい、むしろ、一次会解散あるいは二次会へ向かう人たちがいてもおかしくない時間帯
酔っ払い特有の、とりとめもなくおのおの好き勝手にもりあがる集団群からなんとなく視線をずらしたことに、なんら意図はなかった
だから、まったくの偶然だったのだ。喧騒からすこし離れたところ、ビルの陰や噴水前のベンチで濃いめのスキンシップに勤しむ―――絡みあうような熱い抱擁や、重なっているのは唇だけではないキスを楽しむカップルを目撃してしまったことは

申し合わせたわけではないが、ふたりの視線の先はまったく同じ
しばし気まずい沈黙に陥ったのち、ようやくうわずりながらも口火を切ったのは蘭世のほうだった

「あ……ははっ……。こ、公衆の面前でけしからんって感じよねっ」

俊は苦笑しながら頷いた
正直なところ、そういうことをしたいされたいお年頃であることは間違いない
とはいえ、そこに不特定多数のギャラリーをおく必要はないのだ





―――が

「なんとなく気持ちがわかった……気がする」
「え。……あ」

低く呟いた声とともに、ゆっくりと顔が近づく
夜風でほんのすこし冷えた頬に、同じく冷えたてのひらが触れ、蘭世は反射的に目を瞑る
つるりと入り込み、なんら悪戯せずおとなしく戻る。そんな舌の動きだけで、肩が震えた

手を伸ばせばすぐそこに、触れたい感じたいものがあるのだから、手を伸ばす
そんなシンプルな欲求は、ギャラリーの有る無し程度で止められるものではない。ただそれだけのことだ
別れ際なら、なおのこと。その日いちにちが楽しかった分だけ、名残惜しく、別れがたい思いは募る
まんまと触発され、くすぶり始めた情念は、一歩踏み出すごとに悶々とふくらみ続け―――ご覧のとおり全面降伏
触れるだけ、ひと往復だけのキスで、体中に甘い疼きが広がっていく

それでも、やはりそこはにわか。人目につくのは顔から火が出る思いだし、そもそも柄にもないことをしでかしたという自覚も手伝い
冷静に戻るスピードは超・高速。頬に血が昇るのも同様で、蘭世がふたたび目を開けた時には、俊の顔はほやほやに茹で上がっていた

「…………っ、おやすみ!」
「あ…………」

挨拶もそこそこに、俊は脱兎のごとく駆け出す
あっけにとられたまま手を振り、その手を唇に移して確信する。ほのかに残るぬくもりも、いとおしい気持ちも、ふたりはまったく同じなのだと
いや、信じてはいるのだ。互いの気持ちを確かめあったあの日から。けれどそれを、言葉はもちろん態度で改めて示してくれる機会はごくごく稀なもので―――そんな瞬間がたまらなく嬉しい

俊が蘭世を送り届けるのが習慣なら、蘭世が立ち去る俊を見送るのもまた然り
いつものように、目に焼き付けるべくいつまでも見届けるその後ろ姿は、今日はなんだかとても可愛らしく見えた




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