皆の前で永遠の愛を誓う口づけのあと、彼は
ほろりとこぼれる彼女の涙をそっと拭った





そういえば彼女の涙を見たのは、とても久しぶりのことだ
思わず溢れてしまったというような、嬉しい涙もつらい涙も
最近は特に目にすることがなかったように思う
(もちろん、ふざけて泣きわめいたりすることはあったけれど)

久しぶりに会ったら二学年も上になっていた自分の卒業式にも
見送る立場の彼女は、真っ赤な顔をして涙をぐっとこらえていたし
どうにもこうにも様子がおかしく、何かの話のついでに問いただしたら
彼に別れを告げられたのだとこぼしたときにも、彼女は、大丈夫だと笑っていた

彼女たちがすでに、別れを言う言わないという関係にまで発展していたということにも
正直、驚いたといえば驚いたのだけれど
その言葉に楓は、芝に並んで腰をおろしてつついていた弁当箱を取り落としそうになった
たとえ何が起きたとしても、彼が彼女を切り捨てるようなことはないだろう、と思っていたのだ
だって彼は彼女が現れてからというもの、本当に変わったから

大丈夫と言うその顔がいちばん危なっかしい そう思ったけれど、口にすることはできなかった
自分の痛みを外に出さない それがきっと彼女なりの気の遣いかた
大丈夫そうには見えないことを伝えることは、彼女を追いつめることになる

様子が気になるから問う、けれど答えたこと以上は、望まれない限り決して踏み込まない
痛みをムリヤリ分かち合うのではなく、分かち合えるようになるまで待つ
ほんとうに駄目になったとき、安心して泣ける場所がここにあるのだと思えるからこそ
自分たちは、うまくやってこれたのではないかと思う





彼女の涙を拭う手は、ちゃんと他にあるけれど
結婚が決まったことを、いちばんはじめに自分へ伝えてくれた彼女と
自分との関係は、これからもきっと変わらない
そしてなにより今は、彼女の幸せが、自分のことのように嬉しかった

楓は、いつのまにかじわりと涙がにじんでいた目元をこっそりと拭った



→ 春を寿く