「真壁くん……起きてる?」
「……オス」
ここは病室。5日前、俊は目を傷め、仕方なく入院したのだった。
全治3ヶ月。目もとに巻かれた包帯の白さが目にしみる。
水のさほど減っていない花瓶が2つ。持ってきた花束を強引に昨日の花束と同じ花瓶に挿す。
色合い一緒だし、今日はこれでいいよね。
明日来るときは花瓶もうひとつ持ってこなきゃ……
「えへへ。ちょうどおやつの時間だねっ
今日はねえ。おいしい林檎でーす。」
くるりと俊の方を振り返り、努めてはしゃいだ声を出す。
「……そうなんだよ。おまえが毎日なにかしらうまいもん持ってきて、
それ食って、あとは寝るだけ。太っちまうって、俺」
俊もきわめて明るい声。
「やだ〜〜。もしかして、お腹でてきたとか?」
「…………ちょっとな、この手触りは……明らかに変わってきてる、気が……」
「きゃははははっ。だから今日は果物にしたんだよ〜〜。はい、あ〜〜ん。」
「…………」
俊は憮然として、でもしっかり口を大きく開ける。
笑顔で何かを避けている、ちょっとだけ不自然な空間。
『今更言ってもしょうがない』起きてしまったことに対して
やさしい誰かは必ずそういって励ましてくれるけれど、
それは罪を犯してしまったほうの者はけして口にしてはいけない言葉。
そして、その言葉に甘えてしまえる相手ではなくて。
自分を護ってくれた彼。護った結果、目に衝撃、そして白い部屋にとらわれている彼。
───ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
「……泣いてんのか?」
言葉も動作もとまってしまった蘭世の頬に手を伸ばす。
「悪い……。心読んだりとかできなくなっちまったから、判んねえんだけど……。……やっぱりな」
目尻ちかくに指を軽く触れ、俊がため息をつく。
「…………ごめ……なさい……」
「……ったく……。毎回泣くなよ……。そんな深刻なもんじゃねえんだから」
俊は蘭世を静かに抱き寄せる。それも、毎回のこと。
「だって……。だって」
昨日までは、この辺で『ごめんね』と泣き止んでいたのに、
今日は涙がとまらない。
とりかえしのつかないこと。かけがえのない相手を前に
癒えることのない心の傷がきりきりと痛んで
抑えた言葉のかわりに、あとからあとから涙を押し出す。
「……俺もツメが甘かったんだからよ」
やさしく髪を撫でる指。以前よりちょっと頼りなさげで。
そしてそうさせてしまったのは自分で。
ふるふる首を振り、俊の背に回す腕に力を込める。
「…………おまえが無事でよかった」
「…………」
「おまえがこうしてそばにいてくれれば、それでいい」
「……真壁く……」
顔のラインを指でなぞって濡れた頬に到達し
少し上を向かせて唇を寄せる。
それを押さえて、聞きたくて、でも怖くて聞けなかったこと、
でも聞きたいことを口にする。
「……私の、せいなの……に、……それでも、私のこと、愛してくれるの……?
本当は、顔も見たくない、とか……」
しばらく絶句。
「…………人の話聞いてたのかよ……。そばにいろっつってんだろ」
「…………っ」
再びよせた唇が上唇にちょこっと触れるかどうかのところで
蘭世はほんの少し上を見上げる。
甘えてるかもしれない、包まれてるかもしれない、でも、嬉しくて。
病院のベッドはあまりクッションが良くなくて、二人の重みでやけに軋んでいる。
日光が入るのは小さな窓だけ、天井を見上げれば年代を感じさせる染みが
うっすらと、でも多く、目に入ってくる。
「……だれか、来ちゃったりして……」
「…………どうだろな……。1時間くらい前に検温にきたから
次は、夜だと思う……けど」
手探りで蘭世の服のボタンをはずす俊。
もともと不器用な彼。見えないことも手伝って更に手元がおぼつかない。
「……江……」
蘭世は俊のパジャマのボタンをゆっくりはずしていく。
「……エヘ」
袖から腕を抜き、Tシャツを引き上げて胸元を舐める。
「…………!!」
包帯で少し隠れてるけれど、俊の頬が一瞬で紅くなるのが判る。
「……でも、やっぱり、私も……恥ずかしかったりして……」
それより紅い頬を胸に押し付け、ぎゅっと抱きしめる。……だいすき。
たどたどしく触れる指先。注意深いその動きが、
でも確実に蘭世を追い込んでいく。
いつもより少し左を這う舌。すこしずれた箇所に触れ、
あわてていつもの場所に向かう唇。
悪意のない、無意識な俊のすべての動きが
じらされているようで、吐息が漏れる。
とろりと濡れたそこに俊がゆっくりと入り込む。
そう、見えていないはずなのに。それは絶妙なタイミング。
……本当は見えてる、とかいってくれたらどんなにか楽なのに。
沈みかけた心を引き戻すように激しく動く俊。
「……あ……っ」
ぎしぎしぎし。それにあわせて軋むベッドの音が狭い病室に響く。
「……壊れちゃう……」
「……ベッドが? それとも……」
「…………どっちも……。……っっ!!」
のけぞった白い喉、踊る髪。それを見ることなく俊もまもなく果てる。
窓から差し込む陽の光がオレンジに変わる。
胸を伝う一筋の汗がそれを受けて小さく光る。
「……真壁くん、すごく綺麗」
「ん……? 何が」
「真壁くんが……」
「?」
「……残念……」
ぽふ。枕に顔をうずめた蘭世の頭を優しく撫でる俊の大きい手。
「……治ったら、おまえに見せてもらうさ」
しばらく顔が上げられない。
* * * * *
……病院ネタ……。掲示板で『誰か書いて』とのまー様のお言葉に反応し、僭越ながら
書かせていただきました……。
その後のY様(自他共に認める王子の化身)との異様な盛り上がりでかなり趣味に忠実に
暴走した話になってますが。
わかりづらいですが、蘭世をかばって目にけがをした、 という設定になっております。
理由は……あまりつっこまず、事実だけを見つめてください。
……というか深く考えてないです……私も。(オイ)
この話。途中経過の二人の行動をどうしてもひとつに選べなくて、
途中で脱線するリンクを張ってます。お気づきいただけてると思いますが
念のため。
ここの二人は……というか王子は、その後ぴんぴんに治って、夕焼けに映える
蘭世の身体を見ることになりますです。
ということで、ハッピーエンド♪
……みなさまは、どのバージョンがお好きでしょう?