唐突といえば唐突に起こった混乱のなか
とてもじゃないが、みんなで仲良くごはん…という雰囲気ではなくなってしまい
慌しく魔界へと向かう合間を縫って、蘭世が詰めてくれたお土産を手にしての帰り道
お腹に赤ちゃんがいる───そのことで皆が気を遣ってくれることに申し訳ないと思いながらも
(また、持ち前の活発な性格も手伝い、魔界へついて行くのを止められたことを残念に思いながらも)
おとなしく卓のとなりをゆっくり歩いていた
少しずつ、日が落ちるのが早くなるのを感じる
そろそろ空は夕暮れの色合いで、道路に映るふたつの影は、ぐうっと長く伸びていく
「……大丈夫、かしら…開陸……」
「………うーん……」
あのあと、いくら揺すっても叩いても、彼が「水上開陸」の名を思い出すことはなく
一度大きくなって、さらに戻るときの要因である湯を頭からかぶってみたものの
開陸の姿に戻ることはなかった
その場が慌てふためいたところにちょうど俊が帰ってきて
不得要領の彼を引きずるようにして、再び一家は魔界へと向かったというわけである
「水をぶっかける直前のあいつ、ちょっとおかしかったからなあ」
「え!? そうなの?」
「まあな。……愛良も変に無神経なところあるし、案の定ぺろっと言っちまったし」
「あ───……」
必死で流れを変えようとしたのをぶった切るかのごとく、愛良が言い放った言葉を思い出す
あれじゃまるで
「あんな、昔のオトコに会えて嬉しい♪ みたいな口ぶりされたら、凹むって。普通……」
「う───ん……」
思わずココは苦笑する
その前後での、本人の深刻そうな顔つきからして、受けた衝撃もかなりのものだったに違いない
「ああ、でも……」
「うん?」
「あの子の気持ちも、わからなくはないのよねえ……」
「はあ!?」
卓は思わず立ち止まる
手を繋いでいるせいで、それにつられて軽く前のめりになったココを慌てて支える
「あ、ごめん」
「や、こちらこそ悪い、いきなり止まっちまって……。それよりっ」
「ああ……
だって大好きなふたり…ってのもおかしいけど…が目の前にいるんだし…
そりゃ浮かれるでしょ…。お得感も二倍だし」
「……お得感……」
ココの返答を聞いて、卓は心からげんなりした顔をする
まったく女ってのは…とでも言いたげな表情
「それに、開陸……ていうか新庄さん、単純にカッコイイじゃない?
愛良にしてみれば、大人の魅力っていうか…まあ、最初もそこに惹かれたんだろうけど」
「……………」
「え?」
繋いだ手に力がこもる
卓はもう一方の手に携えた荷にばかり目をやり、ココのほうを見ることなく
ぼそぼそと小さく口篭もる
「………おまえは、その……」
「?」
「その……大人の魅力とやらに惹かれたってわけ?」
「!!」
思いもよらない方向からの問いかけに、ココは目を丸くする
そりゃ確かに、そんなこともあったけれど
「や、やだっ! だってあれは魔法で操られてるときのこと、で……」
「おれはっ」
「きゃっ」
再び、手に痛いくらいの力が込められて、ココは思わず声を上げてしまう
それに構わず卓は、今度はしっかりした口調で言葉を続ける
「───あのときのことを思い出すと、気が狂いそうになる……」
「…………卓………」
───どうしよう
そう思いながらも、不謹慎だけれど
どうしても、顔が緩む
あ、いけない、笑っちゃ。───でも
「…………なんだよっ」
「ううん、なんでもないわよ?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜っっ」
止めようと思えば思うほど、ココの顔に浮かぶのは笑みの色ばかりで
満面の笑みをたたえた顔と、夕日に照らされただけではない赤味のさした顔
「……帰ったら、真っ先にごはんにしようね」
ココは負けずに強く卓の手を握り返す
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